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28.長いながい一日 12
それから受話器からは最後のコインだと告げる電子音が鳴った。
朦朧とした意識の中で、ずるずる壁にもたれながら座り込んでしまう。
そうしているうちに、いつの間にか電話は切れてしまっていて、修平の声はもうしない。
俺、10円玉何枚入れたんだっけ。
つか、10円で何分喋れるんだ?
わかんねーや。
電話は切れてしまったのに受話器を戻す気力もなくて、それから暫くしゃがみこんでそのままじっとしていた。
さっきから結構な時間が経ったと思う。っていっても体がだるすぎて時間の感覚なんてわからなくなっていて、寒くて仕方ないし、目は霞むし、とにかく気持ち悪くて体の置き場がない。
でも、もうすぐきっと修平が来てくれる。修平に会えるまで、謝るまで、もう少し頑張るんだ。
そう自分に言い聞かせながら、吐きそうで今にも意識が途絶えてしまいそうなのをぐっと堪えていた。
────そんなことを考えていた時だ。
目の前に人の気配がする。
目をあけるのも億劫で瞑っていると、突然電話ボックスの扉が開けられ、その手が俺の肩を掴んだ。
でも、その瞬間、驚いたのと同時に航とのことが頭に蘇り咄嗟にその手を振り払った。
「もう航とキスなんかしない!」
そう叫んだ矢先に、返ってきた返事は優しい声だった。
「千秋、僕だよ」
頬に手の温もりを感じ、ゆっくりと目を開けて顔を上げれば、一番会いたかった人がそこに居た。
「……修平?」
「うん」
「本物の修平?」
「僕の偽者にでも出会った?」
にっこりと微笑む修平はいつもと変わらなくて、でもさっきみたいなことがあるから自分で自分の頭を思いっきり殴ってみた。
「痛てぇ……。やっぱ本物だ」
そんな俺を見ながら修平は俺のことを抱きしめる。
「千秋。……よかった、無事で」
するとさっきまで凄く寒かったのに、そんな寒さなんて吹き飛んでしまいそうだった。
抱きしめられて耳元で聞く修平の心臓の音はとてつもなく速くて、息も上がっていて、走って来てくれたんだって思うと、すごく嬉しかった。
「しゅ……へぇ……」
震えながら手を伸ばして首に回す。
肌に触れる。髪に触れる。
指先に絡まる襟足も感触も修平だ。
ぎゅっと力を込めて、修平を感じる。
「ん? ここにいるよ」
「修平。ごめん」
「何が?」
「酷いこと言った、俺」
「気にしてないよ。僕の方こそごめん」
「俺、喧嘩するつもりなかったんだ」
「わかってる」
俺なんか怒鳴られても嫌われても仕方ないようなやつなのに、修平はどうしてこうも俺のことを受け入れてくれるんだろう。
優しすぎて申し訳なくなる。
「なんだよ……もっと怒れよ……殴れよ……」
急に溢れ出す涙を修平は優しく拭うと、また強く抱きしめてくれた。
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