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第29章 俺たちの約束 1
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目が覚めると、少し開けられたカーテンの隙間から日が差しこんでいて、時計を見たら11時を過ぎた頃だった。
昼前か。めちゃくちゃよく寝た。
昨日は寝ているのもしんどくて短時間寝ては起きてしまっていたけど、ぐっすり眠れた気がする。
大きく伸びをすると頭もスッキリしているし、体も昨日より断然軽い気がした。
「久しぶりに酷い風邪だった」
顔を洗おうと思って起き上がり部屋を出ると、リビングはなんだかシーンとしていて修平がいる気配がしない。
どこに行ったのかと探そうとしたとき、ダイニングテーブルの上にメモが置いてあるのを見つけた。
『ちょっと足りないものを買い足しに出かけてきます。昼には帰るから』
って、もうすぐ昼じゃん。
そう思ったとき、ガチャっと玄関の鍵が開く音がして部屋から覗くと修平が帰ってきた。
「おかえり」
そう言って近寄っていくと修平は靴を脱ぎながらにっこり微笑んだ。
「ただいま。起きたんだね。もう体は平気?」
「うん。昨日より体軽いし」
「それは良かった」
そう言って修平がキッチンの方へと買ってきたものを持っていったので、俺も顔を洗いに洗面所に向かう。
歯ブラシに歯磨き粉をつけながら、顔がにやけてしまいそうになるのをぐっと堪えた。
当たり前の会話がなんか嬉しく思える。
良かった。普通に戻れた。
気分も軽くなってシャコシャコと軽快な音をさせながら歯を磨いていると、修平が洗面所に入ってきて俺のことを後ろから抱きしめてきた。
「千秋、誕生日おめでとう」
「はりがほー」
(ありがとう)
鏡越しの修平は目を細めると自分の手を俺の額に当てる。
「うん、熱も下がってる」
「だがあ、もおだいりょうらっていってるらど」
(だから、もう大丈夫だって言ってるだろ)
歯ブラシを咥えたまま言うと修平は耳元でクスクス笑って、俺のことを更に抱きしめながら囁くように言った。
「何か食べたいものある?」
「……はんでもひひ」
(何でもいい)
答えたのに修平は俺を抱きしめたまま離れないので、静かになった洗面所には俺が歯を磨くシャコシャコというブラシ音だけが響いて、なんか気まずい。
「はぁ、ひゅーへー」
(なぁ、修平)
俺が呼ぶと修平が顔を上げて鏡越しに目があった。
「何?」
「はんかしゃべへろ」
(何か喋れよ)
すると修平は優しそうに微笑んで、抱きしめる力を強めた。
「喋らなくてこうやってるのが良いんだけど」
そう言ってまた鏡越しに目を合わせたりするから、ちょっとドキッとして顔が赤くなってしまうじゃねーか。
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