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29.俺たちの約束 5

すると修平は持ってきた箱の中から何故か通帳を2冊取り出した。 そしてそれを俺に渡すと、中身を見るように言う。 その通帳の名義は、1つは修平ので、もう1つは俺の名義だった。 その俺名義の通帳というのは大学に入ってすぐバイトが決まったときに作ったもので、最初はバイト代を実家からの仕送りとは別の口座に入れてもらうつもりで作ったんだけど、結局仕送りと同じ口座の方に入れてもらうことにしたから、作ったものの使わなかったものだ。 なくしたらいけないから修平に預かってもらっててそのままで、俺すら忘れてた通帳の中身を今さら見ろと言われても、開設時に1,000円しか入れてない通帳のはずなの、に……。 その中身は……なぜか、増えていた。 「え、これなんで? 増えてる」 「千秋がバイト代から生活費にって渡してくれた分の残りだよ。勝手に通帳触ってごめんね。でも、入金だけならいいかと思って」 「それはいいんだけど……」 親たちとは部屋代以外の生活費は自分たちでやるという約束をしていたから、バイトを始めてから毎月決まった額を2人で集めてやりくりしてたんだけど。 通帳には俺がバイトを始めてから修平に渡していた食費の残りというものが毎月コツコツ入金されていて、塵も積もれば……そこそこの金額に膨らんでいた。 「え、え?」 戸惑っていると今度は自分名義の通帳を見るように修平が言う。 そしてその中身はというと……。 なにこれ。0いくつ? 「な、なんでこんなに貯まってんの?」 「それも僕のバイト代から生活費を引いたもの全部貯金したものだけど」 「修平って……月にいくらくらい稼いでたんだ?」 「家庭教師も塾講師も僕にとっては割が良かったからね」 そういうと通帳を持っている俺の手を修平が包み込むように握った。 「早く自立したかったんだ」 すると修平は手を握ったまま微笑んだ。 「今は大学の学費も親が出してくれているし、部屋代だって親が仕送りしてくれているだろう? 大学院に進もうか考えたとき、このまま親に頼っていたらいつまで経っても駄目だって思ったんだ」 「だから貯金してたのか?」 「最初に貯金し始めたのは、大学卒業したらすぐに次の部屋を借りるための引越し資金くらいにしか思ってなかったけどね。前から言ってただろ? 次は風呂の広い部屋にしようねって」 そして修平は俺の顔を覗き込むようにして微笑んだけど、次の瞬間軽く目を伏せて、俺の手を捏ねるように握りながら続けた。 「でも大学院も自分の貯めたお金で行こうと思って、千秋にはもう少し貯金できてから言うつもりだったのにあいつが余計なことを……」

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