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29.俺たちの約束 6

あいつというのは紛れもなく東海林のことで、それも俺が気になっていたことだった。 「でも、東海林も大学院行くんだろ? 俺がこの部屋を出るなら修平と一緒に住むとか言ってたけど」 「住むわけないし、東海林の進路の話なんて聞いたことないから知らない。きっとあいつはそうやって千秋のこと揺さぶって楽しんでいるだけだよ」 はぁっと短いため息をつくと修平は続けた。 「それにこれは言っておきたいんだけど、僕が一番に大学院の話をしたのは千秋だからね」 「え? でも東海林は知ってたぞ。言ったんじゃないのか?」 「教授と話してるときに東海林がたまたまその場に来たことがあったから、その時に知ったのかもしれない。でも、とにかく僕の口からは一切話してない。ちょっと待ってね」 すると修平はスマホを取り出してどこかに電話を掛け始めた。 そしてスマホを持ったまま片方の膝を抱えるように座り直し、俺に近い方の腕を俺の腰に回して引き寄せて来る。 「な、……」 何って聞こうとしたらシーッと指を立てて合図すると同時に、電話がつながった。 『もしもし』 この声は……。 「あ、東海林? 僕、新藤だけど」 『合宿、先に帰りやがって何の用だ?』 「それよりさ、なんか大学卒業したら僕の部屋に住むって本当?」 『は? 何の話?』 「千秋に言われたんだよね。大学院に進んでも、僕は君と住む気は全くないんだけど」 『あー、お前やっぱ大学院行くのか』 ……はぁ? そう東海林が言ったとき驚きを隠せなかった。 “やっぱ”ってなんだよ。今、知ったの? じゃあ、今までのアレは何だったんだ? 適当にものを言ってたのか!? 俺があれこれ考えている間にも2人の話は進んでいく。 「どうせ僕と教授が話をしてるのたまたま見て憶測で話したんだろ? あんまり千秋をいじめないでよね」 『でもあながち間違いじゃなかったろ? 千秋焦ってたもんなー』 電話越しにも東海林がおかしそうに笑っているのが感じ取れた。 「ふーん。話はわかった」 『は? なんだっ……』 すると修平は東海林の話で聞きたかったことが聞けたから、もう用なしだとでも言わんばかりに向こうの話半ばに電話を切ってしまう。 やっぱりこいつらが友達な理由って、なんだかんだS同士で気が合うからに間違いない……。 とは、思いつつも東海林に踊らされてたことがショックすぎる。 「俺、憶測とかそんなんであんなにモヤモヤさせられたのか?」 「僕が何でも一番に言うのは千秋に決まっているだろう?」 なんか一人で空回りしてたんだって思ったら急に恥ずかしくなって修平の肩に顔を埋めた。 そんな俺の背中をポンポンと優しく撫でて、そっと抱きしめてくれる。 「でも、もっと早くに言えば良かったね……ごめんね」 そしてまた修平は、悪くないのに謝って俺を受け入れてくれるんだ。

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