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29.俺たちの約束 8

ぽろぽろとこぼれ落ちる俺の涙を修平は優しく拭ってくれて、そして抱き締められたなら凄く安心して、俺には修平しかいないと改めて思った。 すると修平が耳元で呟くように言ったんだ。 「千秋と付き合っていることをね、姉貴に話したんだ」 思いもしなかった修平の告白に体が一瞬強ばってしまう。 「え⁉︎ いつ!? 姉ちゃんなんて!?」 体を離して正面から修平を見つめると、修平は笑っていたけど同時に少し困ったような顔をした。 「昨年の今頃。言いにくいけど……殴られた」 1年前……。 な、殴られたってあの姉ちゃん殴ったりするの? それとも、それだけ反対して……。って普通は反対するよな。 少しショックだったけど、当然だとも思いながら俯いた。 きっと樹や咲良だって知ったら……そうなると思う気持ちもわかるからだ。 そんな俺の表情を見たからか、修平は俺の頭を優しく撫でて話を続ける。 「殴られたことはさ、別に大したことじゃないんだ。イメージないだろうけど、姉貴は感情が高ぶると手がでるタイプなんだよ」 「そ、そうなのか? でも、修平。どうして言ったんだ」 「それは、姉貴に結婚の話が出たから……」 そう言って修平は俺の手をまた強く握り締めた。 「一昨年の秋頃、姉貴の彼氏にプロポーズするってことを聞いて」 「そういえば姉ちゃん、今年結婚するんだよな?」 うん、と頷くと修平は静かに話を続けた。 「その時ふと思ったんだよ。姉貴も結婚していつかは子供が出来るんだろうな……って、そして小さいときに親が言ってたことを思い出して考えた」 「言ってたこと?」 「僕は長男だから家を守らなきゃいけないって話。昔ね、父さんが長男の役目について話してたことがあったんだ」 修平はその当時を懐かしむように目を細めてクスッと笑いながら俺に教えてくれた。 「その話を聞いたときは僕もまだ小さかったからよく理解できなかったけど、姉貴が『私は?』って父さんに同じように役目があるのかって聞いたんだ。そしたら父さんが姉貴は女の子だからお嫁に行く、みたいなことを言ったら泣いちゃってさ。姉貴が泣いてるとつられて僕も泣いちゃって『ねーちゃんに譲るから泣き止んで』とか言ったの覚えてる」 少し懐かしそうに話す修平は柔らかな目をしていたが、不意に伏し目がちになりどことなく寂しそうにも見えた。 子供のころとは違って色んなものが見えてきた今だからこそ、修平は親の希望や夢みたものを強く感じて苦しかったのではないか。 そう考えるだけで、俺まで胸がぎゅっと掴まれたように苦しい気がしてくる。

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