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29.俺たちの約束 9
どっちかっていうと俺はそんなに期待されていなかったし、弟もいるからって安直に考えていたかもしれない。
「……修平がそんなこと考えてたなんて、気付かなかった。ごめん」
「どうして千秋が謝るの?」
「俺も長男だけど弟もいるし、今まで深く考えたことなかった。お前は姉ちゃんしかいないから……それで悩んでたんだろ?」
すると修平は目を細めながらかぶりを振る。
「長男の役目っていうのは果たせそうにないけど、僕は千秋と一緒に生きる道しか考えてなかったし後悔もしたくなかったから、姉貴に話したんだよ」
「でもお前、殴られて……。いや、普通は反対するよな」
わかってると言うように少しでも明るく話そうとぎこちない笑顔を浮かべると、修平は俺の頭をそっと撫でた。
「心配しなくていい。姉貴は感情が高ぶるとまず手が出るタイプだから、殴られるのはわかってた」
修平は慣れた印象で笑って話すけど、やっぱり姉ちゃんにそんなイメージないから信じられないんだけど。
「───…それから1年くらい、何度か帰っては姉貴を説得し続けたんだ」
確かに修平はこの1年、ひとりで帰省することが多かった。
でも、その理由はいつも何てことない普通の用事で大体は日帰り、泊まっても1泊で帰ってくるから気にもとめなかったけど、本当は姉ちゃんに会って説得していたのか。
「そうだったんだ……」
本当に俺は何も気付いてやれてなかった。
「最初は反対されていたけど何度も話をして、やっと僕が真剣なことをわかってもらえた。1年で説得できたら早いほうだよ」
「姉ちゃん……納得してくれたの?」
修平は微笑みながら頷いたけど、1人で説得するのは大変だったはずだ。
なのに、俺は……。
この1年を振り返ってみても、やっぱり自分のことしか考えてなくて。
「修平、色々ごめん」
「何が?」
「だって辛かっただろ?」
すると修平は俺のことを抱き寄せた。
「好きな人と一緒にいるためだったら、平気だよ」
トクントクンと修平の鼓動が聞こえてくる。落ち着く音だ。
この鼓動を聞いていると余計に胸がぎゅっとなった。
「でも辛くて嫌になったりしなかったか?」
「全然」
「ほんとに? 後悔しない? 俺、重荷になってない?」
「さっきも言ったろ? 後悔したくないから言ったんだ。僕は千秋が好き。千秋がいないと生きていけない」
体を離して、まっすぐに見つめられながら言われるとまた胸に深く刻まれて、修平が愛おしくてたまらなくなっていく。それは俺も同じだから。
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