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29.俺たちの約束 10

説得は1年近くかかったらしい。 定期的に実家の方に帰っては2人で話し合っていたそうだ。 姉ちゃんも聞く耳はもってくれたらしいので、修平も理解してもらうために必死に話してここまでこぎつけたと。 『修平が本気なのはよくわかった』 姉ちゃんがそう言ってくれたときは本当にほっとしたそうだ。 でも、その後に姉ちゃんは3つの条件を俺たちに提示してきたという。 『それを守れるなら、私は何も言わない』 そう言ったそうだ。 ──── ──… 「それでね、俺たちのこれからについて条件を3つ提示された」 「じょ、条件……?」 「そんなに怯えないで」 「お、怯えてなんかねぇよ」 「姉貴が言った条件は……」 1つ目は、新藤家は姉が婿養子をとって継ぐこと。 2つ目は、親には絶対に言わないこと。 そして3つ目は……。 「千秋の家族にも絶対に言わないこと。これが条件だって」 「俺の家族にも? なんで? そんなコソコソしてるみたいで嫌だ!」 「僕も同じようなことを言ったよ。でも……」 「でも……?」 「殴られた」 ま、また!? 修平は説得する間にいったいどれくらい殴られたのだろうか。 平然と言う感じから新藤家では日常のことなのだろうか? 姉ちゃんが、そんなスパルタだったとは。 「姉貴なりに考えた結果なんだと思う。理解することや受け入れることは、精神的にも肉体的にも体力のいることだってわかって欲しいって言われたんだ。その気持ちを親たちにさせたくないんだろう」 「姉ちゃんはやっぱり俺たちのこと心から許してくれるわけないよな。……きっと俺のことも憎いだろうな」 当然のことだと思いつつも切なくなって小さくため息をつきながら俯くと、修平が俺の背中をさする。 「それは違うよ。千秋のことは良い子だからムカつくって言ってた。悪いやつなら弟たぶらかしたって殴りこみにいけるのにって」 「そ、それは怖いな」 俺がその状況を想像して顔面蒼白になっていると修平がクスクスっと笑って俺の顔を覗き込むようにした。 「姉貴だって千秋のこと好きだよ。千秋だから理解してくれたんだ。それは弟の僕が保証する」 そう言うと修平は微笑みながら俺の頭をポンポンと撫でるようにすると、俺の手を取って話を続けた。 その、修平が姉ちゃんに言われたという言葉は、俺の心の真ん中にズシンと響くものだった。  ──好きになったのが同性だったのは仕方ない。  それに、人間として千秋くんが好きだってこともわかった。  でも、私は家族だから無責任なことは言わない。  もう子供じゃないというならば、だからこそ親のことを考えて欲しい。  事実を突きつけて悩ませたり悲しませたりしないで欲しい。  それから、きつい言い方だけど世間に知れ渡ることがあった時、白い目で見られるのはあなた達2人だけではないのよ───…と。 現実すぎて、心が痛かった。 俺の体が強張ったのを感じたからだろうか。更に修平は力を込めて俺の手を握ってくれた。

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