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29.俺たちの約束 11

子供じゃないからちゃんと考えなきゃいけない。大人だと言うなら尚更だ。 2人だけの世界なんてありえないから、俺たちはこれからもこの社会の中で生きていく。 それでも2人でいることを選ぶから。 そう思いながら、俺は修平の話を聞いていた。 「だから……一生、2人で生きていくなら、一生、親に嘘をつく覚悟を持て。カミングアウトして自分たちだけスッキリなんてしようとするなって。それに、姉貴は千秋にも傷付いて欲しくないって言ってた」 「俺が? 傷付いて欲しくない?」 「うん。良い子だからって」 そう言って修平は笑ったけど、次の瞬間にはなんだかもの寂しそうな複雑な表情をして俺の手をぎゅっと握り締めながら目線を落とした。 「姉貴は、全部1人で受け止めてくれようとしている」 そう修平は言ったけど、修平だって俺とのことを1人で考えてくれたんだと思うと胸が痛んだ。 「修平にも1人で辛いことさせてごめんな。俺にも言ってくれればよかったのに」 「僕の家の問題だからと最初は思ってたんだけどね。でも、言えばよかったね。……ねぇ、千秋……ぎゅってしてくれない?」 突然、修平がそんなことを言い出したからちょっと焦ったけど、それだけ大変だったんだろうなって修平の頭を胸に引き寄せてぎゅっとしてやった。 甘えて来た修平はちょっと可愛かったし。 でも……。 「なんか俺だけ楽してるみたいで嫌だ。俺も、やっぱり家族に言わなきゃ駄目なんじゃないだろうか」 すると修平はそのままの体制で呟いた。 「“私が千秋くんの家族の分まで理解する”って」 「えっ?」 「姉貴はさ、千秋がそう言うのも予想してたんだよ。だから自分が千秋の家族の分まで理解するって……」 姉ちゃんが……。 心底賛成はしてくれないと思っていたのに、俺のことまでも考えてくれていたんだって思うと目頭が熱くなって、修平の頭を抱えていた手にも少し力を込めた。 「姉ちゃんめちゃくちゃ悩んだだろうな。本当に大丈夫かな」 「自分はまだ若いから大丈夫って言ってたけどね。それにプロポーズすることも昨日言ったら頑張れって言ってくれたし。今度、挨拶に来いってさ」 「ま、まじか」 どこまでも懐の広い人だ。 受け入れがたいことだってわかってる。普段は感じてないが俺も修平も心のどこかで後ろめたい気持ちがあったはずだ。 それでも好きで一緒に居たいから、一緒にいる道を選んだんだ。 「でも、姉ちゃんが婿養子をとるとかって大丈夫なのか?」 すると修平がひょこっと顔を上げて頷いた。 「それは姉貴が上手くやってる。姉貴も要領良いし、父さんは姉貴を溺愛してるから嫁に行かずに婿を取るって言って少なからずホッとしてるとこもあるみたい。同居準備も始めるらしい」 「でも、姉ちゃんの彼氏さんは大丈夫なのか?」 姉ちゃんの彼氏と言えば、高校の時に俺が色々勘違いしてぶっ飛ばしてしまった方なのだが……。 「マサさんは4人兄弟の末っ子でね。向こうの家からも案外あっさり許しが出たらしいよ」 「そっか……」

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