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29.俺たちの約束 12
俺と修平のことでいろんな人の人生が動いているような気がした。
いや、俺たちが動かしてるわけじゃないけど色々と考えてしまうのだ。
「……俺がさ、女だったら修平も姉ちゃんも悩ませることなかったんだよな」
そんな時あることがふと頭をよぎって、ため息が出た。
それは、前からたまに考えるどうしようもない俺の空想だ。
そんなことを思っていると修平は寂しさの晴れた顔で微笑んで言った。
「人にはさ大人になるにつれ、大なり小なり覚悟が必要になってくると思う。それは人それぞれだから決まったものはないけど、僕たちの覚悟の1つが姉貴が言う“言わない覚悟”なんだと思うんだ」
「そうなのかもしれないな」
「きっとこれからもいろんな覚悟が必要になってくる。でも、2人で乗り越えたい。千秋がいてくれたら頑張れる。僕は千秋が隣にいてくれたらそれでいいんだ」
そんな殺し文句を目を見つめられながら聞かされたら、どんどん顔が熱くなっていく。
「お、お前な……」
「真っ赤になって可愛いね」
「ちゃ、茶化すな!!」
フフフと笑うと俺を抱き寄せて、頭にそっとキスをした。
覚悟か……大人になるってそういうことなのかもしれない。
何でも守られるだけではなくて、自分自身で責任を負うこと……。
「なぁ、修平。一つひとつ……一緒に大人になろうな」
「うん。そうだね」
修平の明るい声が聞こえて俺も嬉しくなって自然と笑顔になった。
すると自然にさっきまで頭をよぎっていた空想が不意に口をついて出てしまう。
「俺さ、今まで何回も女だったらな……って思ったことあるんだ」
そこまで言ってハッとして「別に女装がしたいとかじゃないぞ」と付け加えた。
「うん。どうして?」
「だってさ……俺が、女ならさ……」
修平は俯く俺の顔を覗き込んでくる。でもいざ口に出そうとすると恥ずかしくなって、そっと修平の首元に顔を埋めて呟くように言った。
「……女だったら…………修平の子供とか産めんじゃん。ありえないけど、想像するんだよ。……俺と修平の……子供…とか」
すると修平のクスクスと笑う声が聞こえた。
「きっと可愛いだろうね。千秋に似たらもっと可愛い」
「いや、そこは修平に似た方がいいだろ!?」
「そう? 千秋みたいに目が丸い子だったらいいな。僕、丸い目が好きなんだ」
「え! 絶対に顔も頭も何もかも修平に似た方がいいって!」
そう思って体を押し返すと修平と目が合った。
そしてどちらからともなく笑いがこみ上げてくる。
「きっとどっちに似てても似てなくても、僕と千秋の子供だったらそんなの関係なく可愛いよね」
すると修平は目を細めながら俺の額と額をくっつけた。
「いつか医学が発展して僕たちでも子供が作れるようにならないかな? 長生きして一緒に待ってみる?」
「バカヤロー。じじいになってから子育てはきついだろ!!」
って言って修平の胸に顔を埋めたけど、ただ嬉しかった。
そこにはちゃんと愛があって暖かいと思ったから。
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