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第30章 それは宝物 1
──それから、暫くして俺は航のところへ行った。
修平は行く必要ないと言ったけど、相談にも乗ってくれたし、病気になった俺を心配してくれた。それなのに俺はお礼も言えず仕舞いだったから行かなきゃいけないと思った。
それに……色々あったけど出来れば友達に戻りたいのが本心だった。
でもそれが都合のいいことだというのは充分にわかっている。
それでもちゃんとお礼だけは伝えたいと思って航の家に向かおうとすれば修平も一緒に行くと言うので、アパートの下で待っているという約束でつれてきた。
あの後バイトに行くと、航は大学の講義の時間変更があったとか言ってシフトを変えていてそれから会っていない。
ドアの前に立ち、大きく深呼吸をしてからインターホンを鳴らすと、ゆっくりドアが開けられて中から航が顔を覗かせた。
「久しぶり……」
そう声をかければ航は力なく笑って頷いた。
「おう、もう風邪は大丈夫か?」
「うん。あのときは……いろいろありがとう。ちゃんとお礼言ってなかったと思って」
「別に礼とかいらないよ。……オレが謝らないと」
そういうと航の視線が階段の下で待っている修平のほうに向けられる。
「仲直りできてよかったな。やっぱり千秋は修平くんの隣にいるときが一番幸せそうだし、それが一番だと思う」
ニッと歯を見せて笑った航の視線が今度は俺の左手で止まった。
「……指輪か。良かったな」
一瞬だけ見せた寂しそうな目をまた笑顔に変えて航は俺の肩を押して帰らせようとした。
「もう帰れ。修平くんが心配してる」
「あのさ、俺の我が儘だけど。……できればお前とは友達に戻りたい。……いや、あの、本当に都合のいいこと言ってるのはわかってるんだけど……」
その瞬間、航の動きが止まり、表情も少し曇った。
その表情を見て、勝手なことを言う自分を心底殴りたくなったけど、やっぱり友達に戻れたら……って思う気持ちの方が大きくて……。
やっぱり虫が良すぎるかな。
「こんなに気の合うやつ初めてだった。でも、航の気持ちに気付かずに頼ってばっかりでごめん。今も、航にしたら無神経に聞こえるかもしれないよな。……ごめん」
結局謝ってばかりで何も伝えられなかった気がしてならない。
俺がもっと言いたいことが上手く言える人間だったらよかったのに。
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