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30.それは宝物 2
暫く沈黙の時間が流れ、その重圧に耐え切れずに俯いていると、航がポンと俺の頭の上に手を乗せた。
そして見上げてみれば、航はいつも見る航らしい笑顔でニッと笑う。
「オレだって前みたいに友達に戻りたいよ」
そう言って歯を見せて笑ったすぐあとに少しだけ眉が下がった。
「……でも、今はちょっと無理だ。でもいつか、また遊ぼうな!」
最後はまたいつもの航の笑顔に戻って、航が手を差し出したから硬く握手をした。
航の優しさに触れた気がして一瞬で胸がいっぱいになった。
手を離すと、航は俺の体を反転させて帰るように促す。
「修平くん、心配そうに見てるよ」
「え、あ、でも」
「修平くん怖いから、ほら」
「あ、うん。……航、また、な……」
そう言いながら振り返れば航も笑って「またな」と言った。
そして、俺は航の家を後にする。
笑いながら手を振る航を見て、また気を遣わせてしまった気がした。
ほんとに俺はどんだけ気を遣わせたら気が済むのだろうか。
でもいつか、また笑顔で友達に戻れたらいいなと思いながら歩いていく。
暫く歩いていると修平が後ろから突然、俺の頭をポンと撫でたかと思うと、手を握ってそのまま早歩きで歩いていった。その顔は不機嫌そうな表情を抑えているような顔だった。
「な、なんだよ⁉︎ おいおい、手!! なんで」
「航くんと手を繋いでたから」
「あれは握手!」
「それでも、嫌」
嫌って、本当にこいつはヤキモチ妬きでこまる。
「なぁ、修平」
「ん?」
「お前ってさ、東海林のこと好きなの? 嫌いなの?」
「うーん、どっちかっていえば嫌いかな」
「前から思ってたんだけど東海林のことどっちかって言えば嫌いで性格悪いって言いながらなんで友達でいるんだ?」
「Sっ気が似てるから」
「マ、マジでか!?」
焦る俺を見てクスクスと笑うと「冗談だよ」って言ったけど、今までの俺の心の声が駄々漏れだったのかと焦ったじゃねーか。
すると修平は笑いながら前を向いた。
「自分よりずる賢いやつを見たのは初めてだったからね。面白い」
「は?」
修平はにっこり笑って俺の手を引いた。
「早く帰って、アレ書こう」
東海林の話はよく理解できなかったけど、とにかく修平が楽しいならいっかって纏めて2人の部屋へと戻っていった。
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