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30.それは宝物 3
────それからまた暫く時が過ぎた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
そう言ってにっこり微笑む修平の横でガチガチに緊張した俺。
今日は、2人とも成人式以来のスーツを着て、ここら辺で一番大きな駅にある一流ホテルのとてもお高い1室の前で固まっている。
「いい? 鳴らすよ?」
ぎこちなく深呼吸を数回してから、うんと頷くと修平がドアベルを鳴らし、ゆっくりと開いたドアの先には……。
修平の姉ちゃんが待っていた。
「こ、こ、こ、こんにちは。お、お、おねーさ、さ、さま!!」
「千秋、緊張しすぎだから」
「千秋くんの反応が正常だと思うわ。政宗も同じ感じでお父さんに挨拶してたし」
すると修平は部屋の中を見回しながら「今日、マサさんは?」と聞いた。
「元々仕事があるから夕食だけ合流することになってるのよ。私は千秋くんと話もあるしね」
そう言いながらにっこり微笑んだ姉ちゃんに促されてソファに腰掛ける。
今日は修平の姉ちゃんへの報告と、姉ちゃんと姉ちゃんの婚約者である政宗さんとの食事会が予定されていたのだ。
本来なら俺たちのほうから姉ちゃんのところに出向くべきなのだが……。予定をあわせようと連絡をとっている最中に、姉ちゃんたちが旅行がてらそっちに行くと言い出した。
それならと修平が自分らのマンションに招こうとするも、そこは姉ちゃんの方が断って。
「私たちはホテルに部屋を取るから。そこに挨拶しにきなさい」とのこと。
もう緊張しまくりだ。
俺は『修平くんをください』的なことを言わねばならないのだろうか。
いや、もう結婚はしたからその台詞はおかしい? そもそも、修平は嫁じゃないしな……。
この間、役所からもらってきた婚姻届(保存用)に2人で署名した時は、修平が勝手に夫欄に書きやがったから俺が妻欄に書かざるを得ない状況ではあったけど……うーん、混乱してきた。
じゃあ、なに?
修平が姉ちゃんに『千秋くんを貰わせてください』とか言うの?
えーい、ややこしい!
つか、あの婚姻届だって後でこっそり妻と書いてあるところを夫に訂正しといたんだからな!
修平、ざまーみろ!
「千秋くん、どうかした?」
「ひゃい! いや、な、何も!」
色々考えていたら姉ちゃんに顔を覗き込まれて驚き、背筋が伸びたと同時に噛んでしまった。
そんなこんなで、今日が正式な挨拶の日なのだ。
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