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30.それは宝物 5
そしてまた姉ちゃんは伏せていた目をあげて俺を見る。
「千秋くんは、修平が好き?」
「は、はい!」
ここはハキハキと答えねばと背筋を伸ばして答えたが、姉ちゃんは表情などを大きく変えることなく淡々と俺に質問してきた。
「どんなとこが好き? 顔は私の贔屓目を差し引いても良いほうだとは思うけど、修平は気難しいとこがあるし頑固だし大変じゃない?」
「そ、そんな……そんなことないです」
「そう? 修平は思い詰めると何をするかわからないとこもあるし、千秋くんは怖いと思ったことはないの?」
「えっ、あ、ありません」
「しつこいし、かといって興味がなくなったらあっさり切り捨てるわよ。姉の私でもゾッとするくらい冷血で元々他人には興味を示さなかったしね……」
「そんな。あの、お姉さ……」
何となくさっきから姉ちゃんに投げかけられる質問に、何とも言えない感情が沸きあがってくる。
修平の姉ちゃんのくせに、修平の悪口を言っているような気がしてなんだかムカムカしてきたからだ。
それはいくら姉ちゃんだと言っても許しがたいことで。
そして俺が黙っても延々と続いていく姉ちゃんの話にだんだん我慢が出来なくなって、その我慢の限界を越えたとこで思わず立ち上がると同時にテーブルに手を突いて思いっきり叫んでいた。
「違うっ!! 修平はそんなヤツじゃねぇ! 確かにたまに突拍子もないことするけど、それは俺の為だし! 俺だって気付いたらさせないし!! すげー優しいんだ。俺には勿体無いくらい良いやつだし、温かいし、気遣いとかすげーし……っえっと、あの、その」
勢いだけで言っているから言いたいことは沢山あるのに言葉が上手く出てこなくて、悔しくてまた机を叩いてしまった。
もっと言いたいことあるのに。
修平の良いところは俺が一番知ってるはずなのに。
そんな俺の姿をみていた姉ちゃんは、それでも眉一つ動かさない冷静な表情で静かに言った。
熱くなっている俺とは正反対だ。
「そんなに修平が好きなの?」
「好きだよ! じゃなかったら結婚なんかしない!!」
「好きだけかしら? それだけの思いで結婚まで出来るの?」
「どういう意味? ……やっぱ……姉ちゃんは……やっぱり俺たちのことを許してくれてはいないんだ」
ぐっと唇を噛み締め俯くも、また冷たく言い放たれる。
「だったらどうだって言うの?」
「だったらって……姉ちゃんは、俺たちのこと」
「理解してくれていると思ったって、そう言いたいのかしら? じゃあ、千秋くんは修平のことをどこまで理解して受け入れているって言うの?」
「お、俺は……」
俺はうまく言えなくてまた黙り込んでしまった。
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