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30.それは宝物 6
うまく言葉がまとまらなくて俯いた俺を見て、姉ちゃんは椅子の肘置きに肘をたてると小さくため息をついた。
「話にならないわね」と言いながら。
妙に冷静な言い方に俺の頭はパンクしそうになって、ぐるぐるといろんな言葉が頭を回る。
苦しい。言いたい。言いたいのに。
纏まらない言葉は膨らむのに喉で詰まって、ただ拳を強く握りしめながら俯いている俺の耳に、またため息が聞こえてきた。
「その程度ってことなのね」
でも呆れたように言い放つ言葉を聞いた瞬間、張り詰めていた糸が切れたのか。
思わず言葉よりも体が勝手に動くとバンと机を叩きつけ立ち上がり、頭はぐちゃぐちゃのままだけど気付けば大きな声で叫ぶように言っていた。
「お、俺は修平が好きだ! その好きってのは、あ、愛してるって意味で! 愛してるから結婚したんだ! だから、姉ちゃんであっても修平の悪口なんか言うな! これ以上言ったら姉ちゃんでも許さないからな!」
ハァハァと息を切らしながら言い切ると、何故か急にシーンと部屋が静まり返った。
え……?
逆にこの状況に焦ってキョロキョロしていると。
そんな静まり返った空間に修平がボソッと呟くように言った。
「僕は嬉しいけど姉貴、あんまり千秋で遊ばないでくれる?」
すると姉ちゃんが若干肩を震わせながら咳払いをした。
「遊んでなんかないわよ。姉として、弟を任せられる人かどうか試してただけで」
「いや、絶対に遊んでた。笑いそうになるのを我慢してたくせに」
「修平、それ以上言ったら……」
姉ちゃんが爽やか過ぎる笑顔で拳を見せ付けると、修平は大人しくなったけど。
え? ……なにこれ。
「まぁ、私も話の持って行き方が強引だったわね」
「え?」
俺が未だに理解できずにいると、姉ちゃんはさっきとはまるで違う温かい笑顔で言ったんだ。
「千秋くんが真剣なのもわかった」
「え?」
そういうと姉ちゃんは立ち上がって部屋の中にあるポットの傍に行きカップを手にする。
お茶を飲むかと聞かれたが俺たちが首を横に振ると、姉ちゃんは自分の分を入れるためにカップにティーバッグを入れてお湯を注いだ。
そして戻ってくると椅子にゆっくりと腰掛けてそっと目を伏せる。
長いまつげが凄く綺麗だと思っていたら、姉ちゃんが話し始めた。
「最初に聞いたときは本当にショックだった。そういう人がいることも知っていたし偏見も持っていなかったけど、まさか自分の弟がそうだとは思わなかったから」
「それは……」
俺が口を開こうとすると、姉ちゃんが神妙な面もちで俺を見た。
「修平が……、弟が千秋くんを巻き込んだと聞いています。本当にごめんなさい」
すると、姉ちゃんは深く頭を下げた。
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