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30.それは宝物 7
突然姉ちゃんが俺に頭を下げたので俺も修平も驚いて慌ててしまう。
「え、姉ちゃん…!?」
「姉貴!!」
「親が仕事で不在がちだったから私が修平の親の代わりになってしっかり育てなきゃって、思いながらやってきた。でも……私も何が正解で、何が間違いなのかわからなくなったのよ」
そう言って伏せていた視線を上げると俺たちを見ながら話を続けた。
「同性でなんてとんでもない! 最初はそう思っていたはずなのに、修平が真剣に頭を下げる姿を初めて見て、さっきも千秋くんが必死に修平のことを守っている姿を見て、嬉しくなった」
すると姉ちゃんは少し寂しげに眉を下げて俺たちに向かって微笑んだ。
姉ちゃんは確かに笑っているけど、どことなく震えながら泣いているようにも見えて居た堪れなくなってくる。
本当に1人で受け止めてくれたんだって、その重みが初めてわかった気がしたから。
すると修平が静かに口を開いた。
「出来損ないの弟でごめん」
でも姉ちゃんはかぶりを振りながらにっこり笑う。
「修平を出来損ないだなんて思ったことは一度もないわ。千秋くんもいい子だからムカつくわよね。悪い子ならそのせいにできたのに」
そう言ってクスっと笑うと、姉ちゃんは紅茶を一口飲んだ。
「前に修平には言ったんだけど、千秋くんにも言っておくわね」
と、姉ちゃんはカップをテーブルに置くと俺の目をじっと見て話を始めた。
「他の人はこういった場合、どう言うのかわからないけれど。私はこう思うの。一生2人で生きていくなら、一生親に嘘をつき続ける覚悟を持ちなさい。カミングアウトするのは自己満足だと私は思う。自分たちの心の枷を外して軽くなろうなんて思わないで」
そう強く言った後に、優しく付け加えた。
「私は修平を生まれたときから知ってるから、千秋くんが唯一心を開ける人なんだって私なりに理解してるつもり。それにね、千秋くんにも傷付いて欲しくない」
姉ちゃんの気持ちは痛いほど伝わってきた。大事にされているってこともわかる。
でも俺は前から気になっていたことがあったから、ぐっと拳を握りしめた。
「それは都合悪いとこだけ隠していることにはなりませんか? 修平は姉ちゃんに言ったのに俺は誰にも言わず、修平だけに辛い思いをさせてる気がして……」
「同じ痛みを味わわなければ修平を支えられない?」
「いや、そんなことは……」
「だったら修平の為にもそれはやめてあげて。辛い思いを千秋くんにさせたいはずがないし、辛いだろうって思ってくれているだけで、修平は幸せだと思うから」
そう言われてチラッと見ると、修平は柔らかく微笑んで俺の頭をなでた。
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