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30.それは宝物 8
修平の気持ちも、姉ちゃんの気持ちも伝わってくる。
その気持ちはありがたいし、わかるんだけど、2人とも困難に立ち向かってきたのに、やっぱり自分だけ何も行動を起こさないというのは、自分だけ甘えている気がしてならなくて我慢できずに立ち上がった。
「でも、そんなの俺、卑怯者って言われ……」
でも、そこまで言いかけたところで姉ちゃんも立ち上がったと思った刹那、目の前に白い星が瞬いた。
気がつけば俺は床に転がっていて……。
一瞬、何が起こったのか理解できなかったけど。
こ、こ、これが噂の鉄拳!!
あまりの威力にガクガクと震えていると、姉ちゃんがゆっくり俺のほうへと歩いてきた。
こ、怖い!
また殴られるー!!
そう思って歯を食いしばりギューッと目を閉じると、予想とは裏腹に姉ちゃんは俺を起き上がらせてくれた。
そして真っ直ぐ正面から見つめられる。
「よく考えなさい、千秋!!」
そう呼ばれて思わず背筋がぴんと伸びた。
「は、はいっ」
「あなたの言いたいことはよくわかる。もしかしたら、両親たちは私が思うより懐が広いかも」
「だったら……」
そう言いかけたところで姉ちゃんの目つきが少し鋭くなり「でも私が許さない」と言った。
そしてすぐに少し切なげな顔になる。
「思っているより親って若くないの。私はね嘘をつき続けることも優しさだと思う。息子がなかなか結婚できないと気を揉ませることになるかもしれないけど、事実と真正面から向き合うよりも幸せかもしれない。憶測でしかないけど、出来るだけみんなが傷付かない可能性が高い方がいい。そうは思わない?」
そして、「……ごめんね。私の考えを押し付けるようなことをして」と、付け加えた。
ふと父さんと母さんの顔が浮かんだ。そして樹と咲良の顔も。
自分はやっぱりガキで、自分のことしか考えてなくて、情けなくて気がついたら涙がこぼれ落ちていた。
「あーあ、泣かせちゃったなぁ」
そう姉ちゃんが言いながらハンカチを貸してくれると、後ろで修平が「姉貴は千秋にもっと優しくするべきだ」とか言っている。
いろんな答えがあると思う。
いろんな意見だってあると思う。
その答えだって人の数だけあって千差万別で当たり前なんだ。
でも、俺は姉ちゃんってやっぱすげーって思ったんだ。
そして姉ちゃんは俺の手を引っ張って椅子に座らせると、自分も向かいに座って最後にこんな言葉をくれたんだ。
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言えないことで悩んだり、吐き出してしまいたくなることだってあるかもしれない。
認めてもらえないことで辛くなることもあるかもしれない。
だから、私だけは理解してあげる。
うちの両親の分も、千秋の家族の分まで、私が理解してあげる。
───…2人は大切な弟だから。
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