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30.それは宝物 9
俺はその言葉にぼろ泣きしてしまったけど、凄く心が温かくなったんだ。
……暫くして俺が泣きやむと、姉ちゃんがニコッと笑った。
「晴れて義弟となったわけだから、今日は美味しいものをいっぱい食べようねー」
そう言って姉ちゃんがいつもするみたいに俺の頬をぐりぐりし始めると、修平が俺のことを引き寄せた。
「これからはハッキリ言わせてもらうけど、姉貴は千秋に必要以上触れちゃ駄目だ。それに、なんでいきなり千秋って呼び捨てなんだよ」
「いいじゃない、義弟なんだから。修平だって弟だから呼び捨てでしょ? だったら千秋もそうなるじゃない」
「よくない! 姉貴はマサさんだけ構ってたらいいだろ?」
すると姉ちゃんは妙に納得した表情でポンと手を叩く。
「千秋と政宗ってよく考えれば同じ系統かもね。可愛くていじめがいのある……」
「だから、千秋って呼び捨てにするなよ。色目も使うな! 姉貴はマサさんだけいじめてろ」
すると姉ちゃんは拗ねたみたいに口を尖らせた。
「いいじゃない。たまにはお姉ちゃんにも貸してよ」
「なんで貸さなきゃいけないんだよ!!」
「修平のケチ。まぁいいわ、修平アレ出して」
なんだか訳の分からない姉弟喧嘩がいきなり始まってポカーンとしながらそのやりとりを見ていたのだが、その喧嘩のようなものがいきなりおさまったかと思うと、今度は修平が鞄から書類ファイルを取り出し姉ちゃんに渡していた。
何を渡したのかと思っていたら、姉ちゃんがその中から取り出したのは……。
俺たちの婚姻届!?
「え? あれ……」
俺が婚姻届を指差しながら戸惑っていると、にっこり微笑んだ姉ちゃんが自分の鞄の中からペンと印鑑を取り出して空白だった証人欄を埋めていく。
修平と同じ綺麗な字で、『新藤 瑞希』と書かれたその後に印鑑を押して婚姻届を俺たちの方へと向けなおした。
「実際に提出するものじゃなかったとしても、証人のところが空白じゃあね……」
すると修平も凄く嬉しそうに微笑んでいて。
「姉貴がね、自分が証人になるから持って来いって」
どこまでこの人は凄い人なのだろうかと思った。
俺たちは自分たちが記入する部分を埋めただけでも満足だったのに、姉ちゃんがこんなとこまで気遣ってくれて凄く嬉しかったんだ。
「姉ちゃん、ありがとう」
「お礼は『お姉ちゃん大好き』って言いながらほっぺにチューで良いわよ」
するとすかさず修平が「冗談じゃない」と言う。
そんな感じで和やかにみんなで笑っていると、ドアベルが鳴った。
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