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30.それは宝物 10

修平がドアを開けたら、爽やかな短髪でとてつもない笑顔の黒縁眼鏡の人が勢いよく入ってきた。 「あれ? 仕事は?」 「大急ぎで終わらせてきたよー! 瑞希ー!」 「はい、偉い偉い」 姉ちゃんのとの会話から、その人があのマサさんであることは明らかで、その姿はなんとなく大型犬と飼い主のようだなんて一瞬思ってしまったけど……それ、言ったらまた殴られるかな。 「マサさん、久しぶり」 「おー修平! 元気だったか?」 「マサさんは相変わらず元気そうだね」 親しげに話している様子を見て、高校のときのことをひしひしと思い出す俺。 顔とかうろ覚えだったし、つか眼鏡だったことも忘れてて今知ったくらいなんだけど、俺はこの人をぶっ飛ばしたことがある。 あの時は色々とあって修平に名前で呼ぶなと言われてイラついてた時に、名前で呼んでいたマサさんのことを勘違いからカッとなってぶっ飛ばしちゃったんだ。 勘違いだったわけだけど説明のしようがなくて結局謝らず仕舞いだったから、すげー気まずいんですけど、ど……どうしよう。 俯いているとマサさんが俺の方を見た。 「あ、君が瑞希の言ってた千秋くん? 修平の親友の。はじめまして」 「え? あ、はい。は……はじめまして」 はじめまして……? も、もしかしてあの時にぶっ飛ばしたやつだとは思われてない? 軽く首を傾げつつ挨拶しながら、そっと修平のほうを見ると「大丈夫」と口を動かしながら頷いた。 どうやらマサさんには俺の記憶はないらしく、簡単な自己紹介を済ませる。 すると姉ちゃんが何かを思いついたかのように手を叩き修平に耳打ちした。 そして姉ちゃんはマサさんを呼んで何かを取り出し「ここに署名と捺印を」と言ったのだ。 姉ちゃんが指差しているのは婚姻届の証人欄で、半分に折られているから誰の婚姻届なのかはうまく隠されていてわからないようになっていたけど紛れもなく俺たちのだった。 「証人? 誰の証人になるの?」 最もな疑問だと思う。すると姉ちゃんは柔らかく微笑んだ。 「私の大切な人の結婚の証人。あまり詳しくは言えないけど、もう一人の証人を政宗に頼みたいの」 「瑞希の大切な人なんだね」 「うん。悪用はしないって私が保証できる」 でも姉ちゃんがそう言うと、さっきまで少し疑った顔つきだったマサさんは、何も疑うことなく証人欄に記入していく。 「え、そんな簡単に書いてもいいんですか?」 あまりに簡単に記入していくマサさんに焦った俺が聞くと、彼は笑顔で答えた。 「瑞希が言うんだから大丈夫でしょ」 「…………」 姉ちゃんはウンウンと頷きながら笑っていた。

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