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1.偶然はいたずら 9
俺の口が新藤から解放されたとき、舌が唾液の糸を引いた。
軽く酸欠な俺は一瞬にして力が抜けてしまう。
そんな俺の様子を見て、新藤はニヤリと笑いながら言った。
「キスだけでくったりしちゃって、そんなに気持ちよかった?」
そんなことを言われてハッとする。
こいつに面白がられてこんなことされて黙ってられるか。
「ふざけんじゃねぇよ。なんでキ、キ、キスなんか!」
「ふざけてないけど」
「ふざけてるだろ。嫌がらせ以外に何があるんだよ。なんでだよ! なんで俺の初キスが男なんだよ!」
「初めてだったんだ?」
そう言って顔を近づける新藤にさらにムカついた。
「う、う、うるせぇよ。お前に関係ねぇだろ! なんでキスしたんだ!?」
「好きだからに決まってるだろ」
「はぁ!?」
まったく、話が噛み合わない。
終始、ふざけたことしか言わない。ほんとに、くそムカつく。
「ふざけたこと言ってんじゃねぇよ。からかって面白いか?」
「本当だよ。さっき言ったじゃん。感情を掻き乱す相手とキスしたら好きかわかるかな? って。それで確信したんだから」
「意味わかんねぇよ。お前、いっつも俺を目の敵にしてただろ? 嫌いなら納得できるけど好きとか……ありえねぇだろ!」
「嫌い? 君はそんなことを思っていたのか?」
「それ以外にどう思えっていうんだよ」
俺がそういうと、新藤はあっけにとられた顔をした。
そんな顔したいのは俺の方だっつーの!
そして、大きなため息をひとつつくと、俺に語りかけらるように言ったんだ。
「柏木は好きな子をイジめたりしたことないの?」
……は? なんだって?
俺が何も言わずにいると、新藤はそのまま続けた。
「好きな子をついイジめちゃったり、そんな経験無い?」
な、なんですと?
「つまり……なんですか? 俺に対して何かと厳しかったのって好きだからいじめてたってわけ?」
「それ以外に何がある?」
って、わかりにくすぎだろっ!!
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