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3.決戦は甘い賭け 10
新藤が携帯に出ると、俺に視線を落としながら話し始めた。
「あ、なんかはぐれちゃったみたいだね。僕も出口にいるんだけど人が多くてさ。うん、うん、もう疲れたし帰ってもいい? そうだね、千秋もみつからないんだ。おかしいね、みんな出口にいるはずなのに」
話の流れからして相手はマリエちゃんだろう。
って、いつの間に番号を交換してんだよ。
つか、お前がいる出口はお化け屋敷じゃなくて、観覧車の出口付近だけどな!!
俺が心の中でツッコミを入れていると、さらに新藤はマリエちゃんと話を進める。
「千秋にも電話してもらえる? 今日はお開きにしようってさ。うん、ありがとう。楽しかったよ」
なにが楽しかったよ、だよ!
電話を切ると新藤は俺を引き寄せ、耳元で言った。
「彼女から電話があるから、君も出口にいると言うんだよ。そして、もう帰ろうってな」
「なっ、なんで。そもそも今日は俺とマリエちゃんとのデートだぞ!」
「言うとおりにしないと、この前君が僕の家でしたことを彼女にバラすよ」
「はぁ? そんなの誰が信じるか」
「彼女は僕の言うことは聞くんじゃない? 残念だね。君の恋は終わりだね」
「…………」
そうこうしているうちに俺にも着信がきた。
マリエちゃんもお開きムードで、そのまま話がまとまってしまう。
がっくり落ち込んでいると、新藤が俺の手を引いて観覧車の入り口に向かった。
そして、なにやらパスを見せるとあんなに人が並んでいたというのに違う入場口に案内された。
「なんだ、何したんだ?」
俺が聞くと新藤はクスッと笑って答える。
「ここは前もってスタンプを押してもらえば優先的に乗り物に乗れるシステムあるの知らなかった?」
「そんな裏技があったのか。つか、いつ集めたんだ。スタンプ」
「内緒」
なんだよ、秘密主義かよ!
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