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4.引き込まれたテリトリー 11
「え、聞こえてた?」
俺が振り返ると、新藤はここぞとばかりにまたニッコリ微笑み俺のことを抱き寄せる。
「おい、離れろ」
「嫌だね。もう離さない」
「ダルいんだよ。離れろ」
「さっきまで可愛かったのに、すぐに悪態つくんだね。君は」
俺は新藤の腕の中で、向かい合わせの状態から背中を向けるように体を回転させた。
しかし、俺が背を向けても新藤は抱きしめる手を緩めない。
それどころか、頭とか髪とかにキスしてくる始末。
あー、何から何まで恥ずかしいし!
「千秋……」
「なんだよ!」
「僕、嬉しいんだ」
「はぁ? 何がだよ」
俺がつっけんどんに言うと、新藤は耳元でクスクス笑っている。
何か、俺は変なことでも言っただろうか?
「千秋って本当にニブいの? 千秋とこうしていられて幸せだって言ってるんだよ」
新藤の言葉を理解した瞬間、顔がカァーっと赤くなるのが自分でもわかった。
なんなんだよ、コイツは。
最近、いきなり甘すぎるんだよ。
言うこととか、態度とか。もうほんと色々。
そういうのに、俺は免疫がねぇんだ。
…………心臓がもたねぇ。
なんなんだよ、この気持ちは。
そんなぐるぐるした想いなんて新藤は知る由もない。
だから、あっけらかんとこんなことを聞いてくるんだ。
「どうして、名前……千秋なの? 女の子みたいって言われない?」
「女みたいとか言うな!」
よく言われる話だから、言葉を強めて返して普通は終わりなんだけど。
「理由があるなら、知りたい」
新藤はそう言ってうなじにそっとキスをしてくる。
不意打ちで体がビクついたのをまた新藤はクスクスと笑っていた。
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