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9.打ち震える鼓動 5
母さんを絶対に部屋に入れてはいけない。
今、部屋の中の新藤は半裸でしかもベッドに横たわってる状態だ。
でも俺の力んだ顔は、母さんからしたらそれだけ新藤が集中しているらしいことが伝わったみたいで。
「そう? じゃあ後で聞いといてね!」
そう言って母さんは階段をおりていってくれた。
よかった……。
母さんの姿が見えなくなると、はぁっとため息が漏れる。
つか、新藤!?
新藤を放っておいたことを思い出し、きびすを返して慌てて部屋に戻ると。
なぜか新藤は普通に床に座っていて、はだけたシャツはちゃんとボタンがとめられ、トランクスとズボンもきっちり、乱れたベッドまで綺麗に直されていた。
「な、なんで?」
「千秋が脱いでなくて良かったね?」
「だから、なんで元通り?」
中途半端に新藤を置いて行った俺も悪いけど、たった数分でなんで? なんて思っていたら少しイライラした物言いになってしまった。
新藤が悪いわけじゃないのはわかってるけど、気持ちの持って行き場所がわからなくて俯いてしまう。
俺が不機嫌そうにしていると、新藤はクスリと笑いながら俺のことを抱きしめた。
「嬉しかったよ。それに、すごく気持ちよかったし」
「本当に?」
「千秋がそこまで思ってくれてるなんてな」
にこっと微笑まれると、恥ずかしくなって居た堪れない。
「う、うるせー。つか、途中で止めて……ゴメン。大丈夫か?」
「大丈夫。さっきも言っただろ? イくなら千秋の中でイキたいし、千秋の可愛い声も聞きたいって……」
耳元でそう言われると、今度は恥ずかしいを越してまたムカついてきた。
やっぱり俺はあまのじゃくだから素直に聞き入れるのは難しい。
「はぁ? お前なんてな、俺にされときゃよかったんだよ!」
「千秋が何に怒っているのか理解できない」
「なんだと、このやろー」
俺が声を荒げていると、新藤はクスクスと笑いながら鞄から教科書を取り出した。
「さ、勉強しようか」
「ん? 勉強?」
俺が首を傾げていると、新藤はダークな雰囲気をかもし出しながらニッコリと笑う。
「千秋のお母さんに勉強って言った手前、ちゃんと勉強しようね」
「今日は宿題ねぇんだし、いいじゃん」
「よくない。お母さんに嘘はつきたくない」
「ついたのは新藤だろ?」
そう言って新藤の方をみると、言葉に出来ないほどのオーラを放った笑顔の新藤がいた。
すげー顔は笑ってるのに……すげー怖いんですけど。
「さ、勉強しようか」
「……は、はい」
そう言わざるを得ない雰囲気をかもし出す新藤に負け、苦手な勉強をすることになる俺だった。
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