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9.打ち震える鼓動 6

勉強は、自慢じゃないが苦手だ。 しかも苦手中の苦手である数学とか……終わってる。 「ここに代入すると答えが出るんだ。わかった?」 ぜんぜん、わかりません。 いや、教え方がどうって問題じゃねぇよ。教え方は凄く上手いからわかりやすい。 でも、俺の能力の問題。頭の容量の問題。 全くやる気になれないでいると、新藤が少し呆れた顔をしながら頬杖をついた。 「千秋、真面目にやってよ」 「これでも、充分に真面目なんですけど」 新藤は、はぁ~っと大きなため息をつく。 むしろため息をつきたいのは俺の方なのだけど、新藤の真剣な顔つきに少しだけ申し訳ない気持ちになってしまった。 すると新藤は真剣な顔をして俺のことを見る。 「僕はね、千秋が僕と付き合ったから成績が落ちたりしたら嫌なんだ」 「俺の成績これ以上落ちることないくらいの低空飛行だから心配ねぇと思うけど」 「千秋はやれば出来ると思うんだけどな」 そう言いながら新藤はまた教科書に視線を落とした。 新藤は頭がいい。学年でも割と上位のほうに名前を連ねている。 俺は毎年、補習をギリギリで免れるくらいの成績。 「この問題やってみて」 新藤はそれからも熱心に勉強を教えてくれた。 俺のペースに合わせて教えてくれているので俺はわかりやすいんだけど、新藤にとってはきっと面倒でつまらない時間だろう。 だって、今やってるそこを理解しても、また次で躓いてしまう。 そして基礎がなっていない俺はそれらの公式を応用して組み合わせることが出来ない。 だから、問題が解けない。 「ここまでは合ってるんだけどね」 新藤が言うようにそこまでしかわからなかった。 それ以上はきっと他の公式を当てはめていかなきゃならないんだろうけど、応用力っていうものが決定的に足りないんだと思う。 そう落ち込んでいた俺の頭にふわっと何かが触れた。 顔を上げると新藤の手だとわかった。 そして新藤は俺の頭を撫でながら。 「ここまで良くできたね」と、なぜか嬉しそうに笑って言ったんだ。

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