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9.打ち震える鼓動 7

どうしてだ? なんで俺は褒められているのか? 解けなかったのに? 不正解だったんだぞ? そう思ってきょとんとしていると、新藤はフフッと肩を震わせて笑う。 「何、笑ってんだよ」 「あまりにもあっけに取られた顔してたから」 「はぁ? 何だと!? またバカにしてんだろ!?」 「いつも言うけど僕が千秋を馬鹿にしたことある?」 ……それは。と、思わず視線を逸らしてしまう。 「無いよね?」 「…………」 確かに、俺がバカにされたかもって思うだけで、新藤にバカにされたことって無いよな。 バツが悪くて机の上に転がってる消しゴムを弄っていると、また新藤の優しげな声が耳に届いた。 「千秋はどうして悪くばかり考えるんだろうね?」 「…………」 「僕はここまで理解できた千秋が偉いと思ったんだよ」 「……だって不正解だろ? 意味ないじゃん」 俺がそう呟くと、新藤は優しく言った。 「最初はまったく理解できなかっただろ? でも、今はここまで理解できた。すごいことじゃないか」 「でも、応用が出来ねぇし他の公式も忘れた」 「また教えてあげるからいいんだよ。何でもすぐには上手くならないだろ? それと同じで千秋も1歩理解したんだ」 「そんなものなのか? お前が甘えさせてるだけなんじゃないのか? 俺を」 「希望ならスパルタにしようか?」 「遠慮します」 それにしても、こんなことで褒められるのってむずがゆい。 褒められ慣れしてないからか、かぁっと頬が熱くなっていくようで恥ずかしい。 たった1問だ。しかも過程の途中が合ってただけで、正解したわけじゃないのに。 絶対に、変だ。 学校の先生だってこれくらいじゃ褒めねぇし、親だって同じなのに。 「何、赤くなってるの? 褒められて嬉しかった?」 「はぁ? 何が! 意味わかんねぇし」 「千秋って可愛いね」 「だから、可愛いとか言うな! 何度言えばわかるんだよ」 「可愛いものを可愛いって言って何が悪いの?」 こいつに何を言っても無駄なのだろうか? でも、新藤の言ってたことは少しだけ図星だった。 褒められることに無縁だった俺は……、こんな小さな成長でも見ててくれるんだって、少し嬉しかったんだ。

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