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9.打ち震える鼓動 8

「さぁ、次はこれやって」 「え、まだやるの!?」 新藤はスパルタではないと言いながら、俺からすれば結構なスパルタだった。 これがノーマルの状態で、スパルタモードのスイッチでも入ってみろ。 絶対に大変なことになる。 絶対にそれだけは阻止しなければならない。 そんなことを考えながら、俺は数学の公式と格闘中……。 やっぱり数学は好きになれない。公式とか全部同じに見えるもん。 そう思いながらも問題に向かっていた俺に新藤が話しかけた。 「週末、泊まりに来る?」 「え?」 「だからうちに泊まりに来る? って聞いてんだけど」 「行く……いや、行かねぇ」 「どっち?」 やべー。咄嗟のことで、思わず即答で行くなんて言ってしまった。 これじゃ、俺がめちゃくちゃ行きてぇみたいじゃねぇか。 いや、本当は新藤の家に行きたいんだけどさ。 どっかの本で読んだことがあるんだ。恋愛は駆け引きだって。 だから、ここで食いついたら押してばかりになってしまう。 ここは引かねば。 そうすれば新藤が“お願いだから来て”って言うに違いねぇ。 お前だけが恋愛マスターだと思うなよ! 俺だってやれば出来るんだ。 新藤がお願いしてくるのを想像しながら、俺は自信を持って言い放った。 「行くかボケ!」 「そう、わかった」 …………は? ………………そう、わかった? …………………………。 …………え!? わかっただと? わかった一言で終わらすのか? コノヤロー!! まさかそんなにもあっさりと了承されるとも思ってなかったので、拍子抜けすると共にがっかりして、更に少し焦っていた。 だから、俺ははっきりとわかるようにもう一度新藤に言うことにする。 「行かないんだぞ!」 「うん。聞いた」 「だから、行かないって言ってんだぞ!」 「だから、聞こえたって」 「行かないのに……」 「君は何が言いたいんだよ?」 「…………」 なぜだ……なぜ、新藤は来てくれと言わないんだ。

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