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第10章 溺れれば夢中 1
次の日──。
案の定、新藤は噂の的になっていた。
あのキスマークは誰がつけたの!? いつの間に彼女いたの⁉︎ 誰なの⁉︎
と、クラス中いや、学校中の女子が騒いでいた。
隠しもしないのは潔いとは思いますけどね、見てる俺はめちゃくちゃ恥ずかしい。
どこへ行ってもその話題を耳にするこっちの身にもなってみろ! 恥ずか死ぬわっ‼︎
誰も俺が付けたとか思ってないのはわかっているんだけど、それでもひとりで恥ずかしすぎて朝のHRが始まる前に疲れきってしまっていた。
ぐったりしながら自分の席に座って新藤を見ていると、何人かの勇気のある女子達は本人に直接聞きに行ったりもしてて、その都度、新藤はちゃんと「付き合っている人がいる」と答えている。
そして、帰って行く子達はみな同じことを言う。
「この間の稲森さん騒動は誤解だったって喜んでたのに、新藤くんいつの間に彼女が……」
「彼女が羨ましすぎる……」
と皆さん嘆いていらっしゃるのだ。
稲森さんというのは、例のマリエちゃんのことで。
そういえばあれ以来マリエちゃんは……。
新藤はおろか俺にまでも近づかないし、なんか怯えている感じだし。
本当に何を言ったんだろう。
新藤は何を聞いても教えてくれないのでわからず仕舞いなんだけど。
まぁ、その話は置いとくとして。
みんな新藤に彼女が出来たと思い込んでいるけど、彼女じゃないからねと、心の中で思う。
つか、俺だからね。男だからね。
新藤もわざわざ“付き合っている人”という表現をしている。
つまり“彼女”ではないわけだ。何度も言うけど俺は男だから。
これって、ぶっちゃけ一種の詐欺に近いんじゃないかとも思う。
そして目の前にいる内川もまた、新藤詐欺に引っかかっている一人だ。
なんでか最近、昼飯は俺と内川と新藤で食べるのが当たり前になりつつあるのだが……。
今日のホットな話題はやっぱり新藤のキスマークの話。
これ以外にありえない。
もう朝から内川は興奮気味だったわけで。
「新藤の彼女って情熱的だな」
昼飯を食べているとき、いきなり聞こえた内川の言葉で俺は思いっきり飲んでいた牛乳を噴出してしまった。
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