129 / 622
10.溺れれば夢中 9
え? 何て?
彼女の様子がおかしいとか思っているうちに、俺は一番大事なところを聞き逃してしまったみたいなんだけど!
え? 何が好きだって⁉︎
「あのさ……」
悪いとは思ったが、もう一度聞きなおそうとすると……。
「きゃーどうしよう。言っちゃった! 言っちゃった!」
彼女は全く俺の話なんて耳に入らないほど高ぶっているようで、全然話を聞いてくれない。
しかも、あろうことか彼女の話はそのまま続いていく。
「突然、言われても困るよね……。め、迷惑かな?」
どうしよう。話が全く見えません。
一体何が好きで、何が迷惑なんだ?
訳がわからず俺が固まっていると、塚本さんも表情が暗くなる。
それが原因なのかはわからないけど、塚本さんはまた一人でパニくりだしたではないか。
「ど、ど、どうしよう……」
いや、俺の方がどうしようだし!
俺が大事なところを聞き逃したばっかりに、なんかややこしくなってる気がする。
「あの……」
もう一度書き直そうとしたその時。
なぜか、塚本さんの鼻から……鼻血が出た。
え────っ!? 今度は何なんだよ⁉︎
なんなんだよ。この展開は。つか、なんで鼻血とか出てんの!?
「だ、大丈夫?」
「大丈夫、ちょっと興奮してしまって」
え? 何に!?
いや、そんなことは今はどうでもいい。俺はポケットにあったハンカチを差し出すと、塚本さんはティッシュを持っているから大丈夫だと言った。
「柏木くんゴメン。私が呼び出したんだけど、これ以上喋る自信がなくて……この話は延期させてください!!」
そう言ったかと思うと、また猛ダッシュで走り去っていってしまった。
「え⁉︎ ま、待って……」
結局、何の話だったかわからなかった。
それに、なんだよ。あの塚本とか言う子……。
鼻血しか覚えてねぇ……。
ともだちにシェアしよう!