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10.溺れれば夢中 10

結局何の話だったのかすらよくわからなかったが、とにかくまずは帰ろうと思って門に向かって歩くと、そこには新藤が立っていた。 「どうしたんだ?」 「千秋を待ってたんだよ」 「俺を?」 そういうと、新藤は微笑みながら俺に顔を近づけて耳元で聞いてくる。 「バシッと断れた?」 う……。どうしよう、よくわからない理由で延期になったって言って信じてくれるだろうか? なんて言ったらいいか考えていると、見る見るうちに新藤の顔色が変化していく。 「千秋?」 「じ、実は……」 「もしかして断れなかった?」 「いや、あの……」 うっかりしてる間に聞き逃してわからなかったって説明しなきゃ。でも、どう説明したら……。 こんなに口籠っていたら変に誤解されてしまう。 ちゃんと新藤に言わなければ。 「よ、よくわからなかったんだよ。話してるうちに、なんか延期するって言われて」 「延期? 何が?」 「その子がいきなり鼻血出して、延期にしてって走り去っていったんだ」 すると新藤は俺の腕を痛いくらい掴み、引っ張って歩いて行く。 その顔は明らかに不機嫌で。 「お、おい。新藤」 「週末って言ってたけど、今日うちに連れて帰る」 静かに響く声が不安をあおる。 やっぱり怒っているのだろうか。 「新藤、おい……っ」 「話は帰ってから」 そう言うと、新藤は俺の腕を掴んだまま、それ以降何も言わなかった。

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