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11.甘く溶けていく 3

追試まであと2日となった日の昼休み。 今日は天気がいいということで中庭で昼食をとることにする。 「今日はいい天気すぎて10月ってことを忘れちまうな」 そう言いながら内川が芝生の上に寝転がった。 今日はまた夏みたいに暑い1日だった。 「こんないい天気なのに午後も授業かと思うと憂鬱だなぁ。それに柏木は新藤と追試対策だろ? 1人じゃつまんねーよ」 内川はこの間、付き合っていた彼女に別れを告げられたらしい。 理由は彼女に好きな人ができたからなんだとか。 前から別れる兆候があったからと冷めたように言っていた内川だけど、今まで彼女のために使っていた時間がぽっかり空いてしまって寂しそうにも見えた。 「だったら一緒に勉強する?」 そう新藤が提案すると、慌てて内川は断った。 「せっかくテストが終わったのに勉強とか遠慮しとく。それに柏木と成績が大差ない俺が行っても役に立たないだろうし」 「そんなことはないのに」 にこやかに2人が話しているのをみて改めて追試のプレッシャーがのしかかってくるように思えた。 内川とは総合点が5点も差がなかった。 いわゆるここがボーダーラインの手前と向こう側なのだ。 やっぱりあの問題落としたのがだめだったなぁ……なんて反省しながらパンを頬張っていると。 「さっきから千秋は何をブツブツ言ってるの?」 「え! 声に出てた!?」 俺が驚いた顔をすると新藤がクスクスと肩を震わせて、内川は腹を抱えて笑う。 「お前、いっつもそれ引っかかってんじゃん。新藤ナイス!」 内川の言葉にメラメラと怒りがわいてくる。 「また新藤、テメー! はめやがったな!?」 「ひっかかる千秋が悪いと思う」 「はぁ?」 俺が新藤の胸ぐらを掴みかかろうとした瞬間、逆にその腕を新藤に掴まれた。 ──その時だった。 「キャー♡」 きゃーだと? しかもこの妙に語尾にハートマークでも付いてそうな、きゃーが耳につく。 イライラしていた俺はそのまま叫ぶように声の主に向かって言った。 「おい! 塚本、そこにいるのはわかっている。出てこい!」 「塚本なんていません」 「じゃあ返事してるテメーは誰だよ」 すると、観念したのか草の陰から塚本みのりがひょこっと顔を出した。

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