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11.甘く溶けていく 6

俺がゆっくりと新藤に視線を向けると、相変わらず余裕の笑顔を浮かべていた。 「お前な、ペラペラと喋るなよ」 「何を?」 「何をじゃねーだろ……俺の……ことだよ」 思わず尻すぼみになっていく俺の声を聞いて、新藤は目を細める。 「内川くんは千秋のことだなんて思ってないよ」 「思ってなくても! ……俺が恥ずかしいのが、わからないのか。……ボケ」 新藤はそんなことを言う俺を見るとクスッと笑って耳元に顔を近づけた。 まるで内緒話でもするみたいに、小声で囁くように言う。 「そんなことわかっててやってるときは、どうしたらいい?」 新藤が喋ると息が耳に当たる。 その感触が俺の全身の血を顔に集結させ、一気に顔が熱くなって困る。 「わかってんならするな!」 「ただの雑談だよ。よくある話じゃないか」 お前等には雑談でもこっちは気が気じゃねぇんだ。 「雑談ならもっと普通の話をしとけよ!」 「照れなくてもいいのに」 「照れてねぇし!」 どうしてお前はいつもいつも自分の都合のいいように解釈するんだ。 そう呆れていた頃に予鈴が鳴ったので、教室に戻ることにする。 俺が立ち上がって校舎に向かって歩き出すと、新藤もクスクス笑いながらその後を付いてきた。 そんな余裕顔でいる新藤に少なからずむしゃくしゃしていた。 接触禁止令を出したのは、新藤の方だけど……、お前は呑気でいいよな。 ……俺なんてお前に触れたくてたまらないのに。 なんて思いを払拭するように頭を振った。 その時。 あっ、っと俺は思い出したように立ち止まって振り向く。 「さっき、内川が言ってたことだけど。俺は塚本のことなんて何とも思ってないからな」 誤解とかされんのはごめんだから、そう一言だけ言うと、新藤は一瞬、動きが止まってきょとんとした顔をしたけど、すぐに微笑んで頷いた。 しっかし、この集中力低下をなんとかせねば。 そうは思ったけど、その日の午後の授業も新藤との勉強中も集中力は落ちていく一方だった。

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