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11.甘く溶けていく 16

トクントクンと心臓の音が聞こえて来るだけで、何も言わない新藤のことが気になって、少し顔を上げてみると目があった。 「たまにはいいね。こうやって千秋の気持ちが聞けるなんて」 「ん?」 「こんな可愛い千秋が見れるなら、しおらしくしてた甲斐があった」 ん……? んん? 新藤の言葉が引っ掛かった。 しおらしくしてた甲斐があった? しおらしくしてた甲斐があっただと!? 「……おい。まさかとは思うが……さっきまでの態度がわざとだとは言わねーよな」 俺を見ていた新藤が優しく微笑んで言った言葉に、耳を疑った。 「わざとだけど?」 「な、な、なんだとー!」 ケロッとした顔で明るく答える新藤に怒りが沸いてくる。 「千秋は可愛いからつい、いじめたくなっちゃうんだよね」 「ついって何だよ! ついって!」 俺がギャーギャーとわめいていると、ふわっと包み込むように新藤が俺のことを抱きしめて言ったんだ。 「僕には千秋の気持ち、充分伝わってるよ」 胸がドクンッと跳ねる。 「素直じゃないのに?」 「憎まれ口は照れ隠しだろ? それに八つ当たりされても千秋なら可愛く思えるし」 「なんだよ、ソレ。お前ってもしかしてMなのか?」 「いや、どちらかというとSだと思うけど」 あっ、そっか……。じゃ、ねえし! 返す言葉が見つからなくて俯いていると新藤が俺の頭を撫で始めた。 「千秋だって素直なときあるじゃないか」 「え? いつだよ」 「セックスしてるときは素直で可愛いと思うよ。『修平好き』って言ってくれるし」 「なっ……」 カーッと顔が熱くなっていくのがわかる。 な、何を言うんだ。 新藤のボケカス! さらっと平気な顔で言うとかありえない! 「お前なんか本当に嫌いだ」 「それは訳すと大好きってことかな?」 「まんま嫌いって意味なんだよ」 「そっか、そんなに僕のことが好きか~」 「耳おかしいんじゃねぇのか! 離れろカス!」 俺がぷいっとそっぽを向くと、また俺の機嫌でも取ってくるんだと高を括っていたら。 新藤は「さてと」と言いながら立ち上がり台所に立ち水道をひねった。 なんだ、案外あっさり引き下がるんだな……。 って、別に残念だなんて思ってないんだからな! でも手持ち無沙汰な俺は立ち上がってダイニングの椅子に座る。 それから晩御飯を作っている新藤を眺めていた。

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