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11.甘く溶けていく 17

「出来るまでテレビでも観てたらいいのに」 「別にいい」 別に今日は特別観たいテレビも無いし、料理が出来ていく音を聞いているのも悪くない。 新藤の家でご飯をよばれるときもこんな風にして見ていることが多かった。 それにしても自分ちの台所に新藤が立ってるなんて変な感じだ。 すると食材を炒めていた新藤が振り向いた。 「千秋、ちょっと手伝って」 「俺に手伝えることがあんのか?」 「千秋にしかできないことだよ」 俺にしかできないこと? 料理なんて全く出来ない俺にしか出来ないことって何だ? 手招きされるまま新藤のそばに寄っていく。 「ここに立って」 立てと言われたのは新藤の真後ろ。 そして両手を掴まれると、新藤は俺の腕を腰に巻き付けた。 なんか、これって……俺が新藤に抱きついてるみたいなんだけど。 「オイ、これには何の意味があるんだよ!」 「僕が嬉しいだけ」 「はぁ!?」 俺が離れようとすると、新藤が手を掴んで離さない。 「いいからこのままで」 「嫌だ! はなせ! 俺が抱きついているみたいだろ!?」 それでも無理やり手を離すと、新藤は鍋に水を入れて蓋をしてから俺の方へ振り返り、ギューッと痛いくらいに抱きしめたんだ。 「本当は何もせずに、ずっと千秋を抱きしめていたいよ」 「お、おい……」 「でも千秋に僕の料理も食べてもらいたいし。千秋にしてあげたい事がありすぎて困るな」 ハハハと笑った新藤は軽く唇に触れるだけのキスをしてまた台所に向かった。 困ったような顔をした新藤は儚げだった……。 ん? んん? んんん? ……なんだこの空気は。 新藤の背中から無言の圧力を感じる気がするのは気のせいか? え? もしかして、さっきのを自主的にやれという空気なのか!? ムリムリムリムリ。 恥ずかしくて出来るかよ。 でもなぁ……。 あまりにも寂しげな新藤の背中を見ているのも……ちょっと辛い。

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