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11.甘く溶けていく 18
今日はこの家に俺と新藤しかいない。
それに追試明けだし……。
別に俺がやりたいわけじゃないからな。
追試で良い点が取れたのもコイツのお陰だから、お礼を兼ねてってだけだからな……。
頭の中でたくさん言い訳しながら、新藤のシャツに手を伸ばす。
指先が少しシャツに触れると、少し怯んで手を引っ込めそうになってしまったけど。
掴んだシャツをぎゅっと握った。
「おい、新藤」
「ん? 何?」
「もう次からは絶対にしないんだからな」
新藤は軽く振り返りながら何が? なんて言い掛けたけど、それを聞き終わる前に俺は新藤の背中に顔を埋めた。
腕なんか恥ずかしくて回さない。
だから、新藤のシャツを握りしめて背中に額をくっつけた。
──俺の中ではもう、限界。
新藤も、はじめは振り返ろうとしたままこちらを伺っていたようだけど、しばらくしてまた正面を向き調理の続きをはじめた。
それから、料理が出来上がるまでの時間……俺たちは一言も喋らなかった。
ただグツグツとシチューが煮込まれる音がするだけ。
あ、シチューの音だけじゃねぇや。
シチューの煮込まれる音と、……俺と新藤の心臓の音だけが俺の耳に響いていたんだ。
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