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11.甘く溶けていく 20

───… しばらくすると濡れた髪をタオルで拭きながら新藤が部屋に入ってきた。 「お先に、千秋も入ってきたら?」 「う、うん」 新藤の濡れ髪はなんつーか、綺麗だなぁなんて思ってしまって、またひとりで恥ずかしくなる。 すると新藤が嬉しそうな顔をしながら俺に言った。 「千秋と同じ匂いになった」 「え? なんだ?」 「シャンプーの匂い。千秋はいつもいい匂いがしてたから」 「普通のだろ?」 「でも、僕はこの香り好きだよ」 「う、うるせー」 新藤は聞いているこっちの方が耐えられないくらいの甘い言葉を投げかけてくる。 嬉しいけどよ……。 俺はそのたびに心臓が破れそうになるんだ。 耐えられなくなって、部屋着を掴んで風呂に向かう。 そして、シャンプーをしているとさっき新藤が言ってたことを思い出した。 使ってるのは特に何の変哲もない普通のシャンプーだし、安いからという理由で近くのドラッグストアで母親が買ってきたものだ。 もっと世の中にはよい香りのシャンプーなんて腐るほどあるのに。 俺と同じで喜ぶなんて……。 なんか、嬉しい……。 考えるだけで胸がキューっと痛むなんて重症だと思うけど、今日は久しぶりにずっと新藤といれると思うと嬉しくてたまらなくなる。 俺が新藤んちに泊まる時もそうだが、こういうとき男は便利だと思う。 女だったらそもそも外泊とかが難しそうだ。 前に内川が彼女と泊まる時に、彼女は友達にアリバイ作りしたりと大変だったと言っていた。 確かに咲良が外泊とか考えただけでも大反対だし! って、内緒で恋人の家に度々泊まりに行っている俺が言える立場ではないと言われそうだが、それとこれとは別だ。 でも、なんだか自分の部屋で新藤が待っていると思うと変な感じがする。 やべー、早く新藤に抱きつきてぇ。 いつもならそんなこと、恥ずかしすぎて考えもしないのに。 ここ1週間、触れなさすぎておかしくなったに違いない。

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