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12.とびきりを届けたい 2

だけど、そんないきなり名前で呼べるかよ。 タイミングとかわかんなねぇし、恥ずかしいし。 でも、もしかしたら新藤の不安っていうのは、俺が名前で呼ばないからかもしれない……。 そう思うと恥ずかしいとか言ってられない気がする。 そんな事を考えていると塚本がバーンと背中を叩きながら俺に言った。 「もう! ラブラブのくせに照れ屋さんなんだからぁ」 「ラブラブじゃねぇし!」 「あ!」 すると、俺のツッコミなどスルーした塚本はいきなり鞄からノートを取り出し、何かを一生懸命書き始めた。 「なんだそれ?」 「萌えノート」 「萌えノート……?」 「思いついたこととか萌えたことをメモってるの」 「今は何をメモってるんだよ」 「いや、柏木くんが思い切って新藤くんの名前を叫ぶシーンを想像したら萌えた……」 「お前、もうどっか行けよ」 こいつの妄想力は凄まじい。 それはたまに、実は本当のことを知ってるんじゃないかって思うくらいでヒヤッとするのだが、本人はただただ純粋に妄想を楽しんでいるだけなのだ。 でも、逆に塚本の想像通りの俺っていったい……。 「朝から元気だね?」 そんな俺たちの会話に入ってきたのは新藤だった。 すると、塚本は慌てて後退りしながら 「私は新藤くんとの時間を邪魔しないとこで見てるから!」 そう言うとダッシュで離れていく。 「もう教室帰れよ!」 俺の叫び声も虚しく、塚本はグッドラックさながら親指を立てて笑顔で物陰に隠れていく。 あいつに何を言っても無駄なのだ。

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