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12.とびきりを届けたい 9

結局、放課後まで話はおろか目も合わせなかった俺たち。 もう新藤なんか知らない。 眼鏡男でも何でも好きにすればいいと思う。 もう俺はお前のことなんて気にしないし、振り回されもしない。 そう決め込んで帰り支度をする。 「なぁ、柏木。新藤となんかあったのか? 喧嘩か?」 「……別に」 心配そうに見つめる内川には悪いが、今日は何も話したくない。 内川には「帰る」とだけ告げて教室を出た。 苛立ったまま靴を投げつけるように出して乱暴に履くと、向こうから新藤が歩いてくるのが見えた。 俺は正門に向かいながら、どこへでも行きやがれ! と、思ったが歩みを止める。 やっぱり……あの眼鏡男だけは気になる。 俺は気付かれないように引き返してきて、隠れながら下駄箱の様子を伺っていた。 そして、靴を履いた新藤が正門とは逆方向に向かったので、バレないようにその後をつける。 誰と会うんだろう……。 眼鏡男でなければいいのに。 なんて、淡い期待したってしょうがないことはわかっているはずなのに。 そんな思いを振り払って、新藤の後をつけていった。 新藤は裏門に向かっているようだった。 眼鏡男だとしたら前は正門に車をつけていたのに、今日は人がいない裏門で待ち合わせるなんて。 ますます怪しい。 そして、裏門が見えてくると、そこにはこの間と同じ車が停まっていた。 ……やっぱりあの眼鏡男だったか。 その車を見た瞬間、胸の真ん中にあるモヤモヤとした黒いものが大きくなった。 そして、さらにその眼鏡男に対する新藤の態度にそれは大きくなっていく。 笑顔で眼鏡男が手を振ると新藤も同じように笑顔で答えていた。 新藤は俺と喧嘩したにもかかわらずあんなに笑顔で。 俺はこんなにも、寂しくてたまらないのに。

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