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番外編③ 僕だけの可愛い人 4
すると、真っ赤な顔をした千秋が僕にスーパーの袋を見せつけながら言ってきた。
「今日はお前に食わせてやろうと思って買ってきたのに、無駄にしやがって」
それを聞いて思わず動作が止まってしまう。
今日は珍しいことだらけだな。
千秋が僕に何かを作ろうとしてくれたなんて嬉しすぎるんだけど。
「何を作ってくれようとしたの?」
「もういい。作らないし」
そう聞いてみたけど案の定、千秋の機嫌は悪くて。
本人はすごく怒っているつもりなんだろうけど、拗ねてる千秋って可愛くてたまらない。
だから思わず抱きしめてしまった。
「な、なんだよ!」
「僕のは明日にするから。今日は千秋のが食べたい」
「だって、もう作りかけてるじゃんか」
本当に、こういう細かいところがうるさい千秋は素直じゃなくて可愛い。
僕はなんとも言えない顔をしている千秋に目を細めながら、切った野菜やらをラップで包んで材料を冷蔵庫にしまった。
「これでいい?」
すると、少しだけ俯いた千秋がゆっくりと目線だけをあげた。
「…………仕方ないから、作ってやる」
「メニューは?」
「カレーだ! 簡単なものしか出来ないからな」
千秋が僕のために作ってくれるならなんでもいい。
きっと家でも料理なんてしないだろう。包丁だって調理実習とかでしか握ったことが無いはずだ。
そんなたどたどしい手つきで野菜の皮をむいて切っていく。
本当は手伝いたいけど、それをすると千秋はきっと怒るからそっと見守っていた。
そんな風に奮闘する姿を見ていたら、可愛くて数時間なんてあっという間に過ぎた。
──そして、数時間後、苦労の末カレーが完成する。
本人も作っている間からおなかが減っていたようで、すぐに食べることになった。
そんな千秋が苦労して作ってくれたカレーは、今まで食べたどんなカレーより美味しかった。
「とっても美味しいよ」
「買った固形のルー入れてんだから誰でも同じ味だ」
そう言いながらも、耳を赤くしている千秋は喜んでいるんだと思った。
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