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番外編③ 僕だけの可愛い人 14
そして千秋は目を伏せたまま、僕に抱きついた。
強くしがみつくように抱きつかれたその体は少し震えていて痛々しくも感じる。
「いつかお前が俺を好きじゃなくなったら、俺は生きていけない……」
そんなことを言うので、僕は千秋の肩を掴み目線を合わせながら言った。
「千秋を好きじゃなくなるなんてありえないよ」
でもまだ千秋の瞳には涙がたまっている。
するとその涙がぶぁっと溢れてきて、千秋はその溢れ出た感情のまま胸の内を口にした。
「先のことなんてわからないだろ!? 俺は修平が好きなんだよ! いや、好きとか大好きとかそんな言葉じゃ足りないくらい好きなんだ。……でもいつか俺だけ取り残されやしないかって……」
そこまで言うと途端に千秋は眉尻を下げて、悲しげに呟くように続ける。
「俺だけがもっと好きになって、修平が離れてしまったら辛すぎる。……いっそ溶け合ってひとつになれたらいいのに……ッ……」
たまに千秋が不安げな顔をしているのは気がついていたけど、こんなことで悩んでいたのか。
前に千秋は僕としか付き合ったことがないから、いろいろわからないことがあるって言ってたっけ。
沸き立つ感情を僕に言ってもいいことなのかどうか、そしてどう伝えたらいいのか、それ自体わからなくて悩んでいたのかもしれない。
そんな必死に訴える千秋を見て他の人ならどう思うんだろう?
少なくとも僕は愛おしくてたまらなく感じた。
こんなに愛されているなんて、こんなに満たされた感情なんて、僕は今まで持ち合わせて来なかったから。
しかし、それにしても君は本当に一つの面でしか物事を考えない人だと思った。
僕が変わる可能性があるって言うなら、千秋も同じじゃないか。
でも、それは千秋の中にはしっかりと僕がいる証拠なんだろうって思うと胸が熱くなる。
酔った君は限りなく素直だ。
今日はいろんな一面が見れて、惚れ直した気がする。
千秋の内面を垣間見て、こんなにも僕を必要としてくれていたんだってわかって凄く嬉しかったから。
簡単なことだよ、千秋。
ずっとお互いがお互いを大切に想い合って一緒にいたら問題ないんだよ。
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