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19.俺の声を聞け 5

咲良の話はこうだ。 ──部活後、用事があって俺らの高校の前を通った咲良は、いきなり数人の男に腕を捕まれた。 そしてそこに髪の長い女が現れて言った。 『ほら、やっぱり来ると思った』 『えっ? あなたは誰ですか?』 その女は全く見覚えのないキツい雰囲気の女だったそうで。 『とぼけちゃって。まだ修平に未練でもあるの?』 『修平さん? ……が、どうかしましたか?』 咲良が首を傾げるとその女はあからさまにイライラしながら咲良を睨みつけたらしい。 『あんまり私を怒らせないでくれる? あんたが未だに付きまとうせいで修平が困ってるの』 『付きまとってなんかいません』 『うるさいわねっ! もういい加減諦めなさいよ』 そう言って女が手を挙げ、振り下ろした瞬間、その手を掴んだ人物が…………修平だったそうだ。 『この子は関係ないだろ。手を出さない約束だったじゃないか⁉︎』 そう言った修平は隙を見て咲良の手を取り逃げてきたんだと言う。 そしてあの電話へと繋がるわけだ。 「───…だからお兄ちゃんは感謝することはあっても、あんなこと言っちゃだめなのよ」 そこまで言うと咲良は俺の前に仁王立ちになる。 「だから、私を家まで送ったらちゃんと修平さんに謝ってきてね!」 「う、うん」 あまりの咲良の迫力に負けて頷いてしまったけど、家に帰るまでずっと考えていた。 修平に付きまとうな? 付きまとってるのは寧ろカナの方だろ? 手を出さない約束……? やっぱり修平はカナに脅されてたのか? でも、どうして咲良に? 咲良なんて今日はたまたま用事があったから高校の前を通っただけじゃないか。 修平の元恋人は俺だし……っても、カナの中では女装した俺か……。 …………。 んん? 女装した……俺?

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