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番外編⑤ 腐女子彼女と親友たちの日常 8
すると、夕日によって真っ赤に染まった塚本さんが俺の制服の袖をギュッと掴んで俺のことを見上げた。
「内川くん……」
その仕草があまりにも可愛すぎてその手を取ると、ゆっくり自分に引き寄せてしまう。
そして教室に伸びた俺たちの陰は、自然と重なった……。
柔らかい感触から少し離れたとき、目にした彼女の顔はさっきよりも更に赤くなっていて目をパチパチさせながら俺のことを見ていた。
「鼻血出すのはもう少し待ってくれな」
「……が、がんばってみる」
頷きながら目を丸くしている彼女はやっぱり可愛い。
思わず抱き寄せると少しだけ彼女の体が強張ったのがわかった。
「こんな俺、嫌? がっかりした?」
「……してない」
そして俺の背中に回る手に力が入っていくのを感じると、受け入れてくれたんだと思って余計に愛おしさが増していく。
すると塚本さんはゆっくり話し始めた。
「欲望と愛情は別だよ」
「何それ」
そう言うと体を離して少し照れた顔した塚本さんが上目遣いで言った。
「BLは私の趣味だし夢でもあるけどね、……す、好きな人は……内川くんだけ。一緒にいたいのも、内川くんだけだから」
言葉というものは不思議なものだ。
ただ単語を並べるだけなのに、口に出して言うだけで単語以上のものが伝わる気がする。
彼女のその言葉だけで、今まで散々モヤモヤしていたものが一気に晴れていくように感じる。
だからだろうか。
つっかえていたものが無くなって、スムーズに言葉が出せる気がするんだ。
「ねぇ、みのりって呼んでいい?」
さすがに我慢も限界らしく、塚本さんは勢いよく鼻血を吹き出し、この話は中断してしまったけど、俺たちはまた一歩進んだ気がした。
────
─────…
鼻血騒動が治まって、いざ帰ろうとしたとき塚本さんが言った。
「……今までの彼女は内川くんのことなんて呼んでいたの?」
「え? 大貴って普通に名前で」
すると、彼女は聞き取れるか取れないかくらいの小さな声で呟くように言ったんだ。
「……じゃあ、ダイくんにする」
「えっ? ダイくん?」
俺が聞き返すと、聞いてるとは思わなかったとでも言うような顔をしてこっちを向いた。
「どうしてダイくんなの?」
「ダメかな?」
「駄目なんかじゃないよ。誰からもそう呼ばれたことないから気になって」
するとまた彼女はさっきよりも小声で呟いた。
「……元カノと同じ呼び方は嫌だから」
彼女なりに元カノへの対抗心みたいなのがあるのかな? って思うと少し嬉しくなって、気付いたら彼女の手を自然に握っていた。
「帰ろうか。──みのり」
また案の定鼻血を出した彼女だったけど、その純粋さがやっぱり好きだと思ったんだ。
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