417 / 622

第21章 新たなはじまり 1

あれから時間は過ぎ、俺たちは無事に大学生になることができていた。 「ぬあぁぁぁぁ!! もうこんな時間だ! 修平、なんで起こしてくれなかったんだよ」 「何回も起こしたよ」 「俺は初耳だ!!」 焦ってバタバタと用意している俺を修平はにっこり微笑みながら見ている。 こんな光景は案外珍しくもなんともなく、修平は落ち着いた様子で俺に小さなランチバッグを手渡した。 「僕は起こしたんだけどね。はい、おにぎり。今日も行きながら食べるだろ?」 「あ、ありがとう」 9月に入ってまだ暑い日もあるが、秋を実感しだした今日この頃。 俺たちは今、夏休みの真っ只中で俺は毎日バイトに明け暮れている。 俺は大急ぎで着替えてから、歯を磨いて顔を洗うと修平が作ってくれたおにぎりを鞄にしまい玄関で慌ただしく靴を履いた。 「いってきます」 「千秋、忘れ物」 「えっ? おにぎりはちゃんと入れたぞ」 「忘れ物……」 そう言うと修平は、俺の顎を軽くつかんで啄むようなキスを落とした。 チュッと音が響くと一瞬体の動きが止まってしまう。 そしてそんな俺を見て修平は柔らかく微笑んだ。 「いってらっしゃい。頑張ってね」 「毎朝、毎朝…いい加減に……」 「早く行かないと遅れちゃうよ」 「やべっ、行ってきます!」 修平は隙あらばおはようのキスだとか、行ってらっしゃいのキスだとか、何かしら理由を付けてはキスをしてきやがる。 それを俺は一緒に住み始めてだいぶ経つのにまだ慣れずにいた。 ……嫌とかそういうんじゃない。 むしろ一緒に住んでるって実感できるし、嬉しかったりもする。でも……。 なんかあれくらいのキスって妙に後に引くから、内心は嬉しいけど恥ずかしくて困る。 こんな日常は、もう1年半くらいになっていた。 ────── ───…

ともだちにシェアしよう!