──── ───… あれは、最終の進路を決定する時期の放課後。 俺は進路希望調査用紙を書くために教室に残っていた。 「柏木も県外の大学志望？」 その紙を後ろから内川に覗き込まれて焦る。 「か、勝手にみるなよー」 「新藤も県外って言ってたし、地元に残るの俺だけかぁ」 そう言いながら内川は寂しそうに笑って大きく背伸びをした。 「あれ？ 塚本は？」 「……あいつも県外。それに加えて小説家になるための投稿とか本格的に始めるって。なんかさ、夢があるっていいよなぁ」 確かになぁ、俺も夢とかってないから真っ直ぐに向かっていく塚本は羨ましい。 「内川も塚本と同じ大学志望じゃないのか？」 内川がはぁっとため息をつくのでそう言ってみたんだけど。 「……できるならそうしたいけどさ。夢とか目的もないのについて行くだけとか男として情けないというか」 「確かにな。それに足を引っ張りたくないってわけだろ？」 「柏木にしたら冴えてるじゃん」 「俺だってそれくらいわかるよ！」 内川の気持ちはわからなくもないんだ。俺も同じようなものだから。 頭の良い修平と最初から同じ学校に行けるなんて思ってなかったけど、修平と同じとこに行く位の気合いで、この１年頑張ったと自分でも思う。 成績だって前よりは格段に良くなって、選べる大学だって増えた。 そんな俺の成長振りは母さんが泣いて喜ぶくらいで。 その喜びように、どんだけだよって思ったけど、すっかり修平はうちで英雄的なポジションにいる。 でも一生懸命頑張ったけど、やっぱり修平の志望する大学のレベルには、残念ながらランクが２つ、３つ足りない。これが現実だ。 まぁ、ここまで来れるとも思ってなかったけど、やっぱり１年じゃ超えられない壁っていうのはあるわけで。 そんなことを思いながら内川に気付かれないように俺も小さくため息をつくと、内川がなにやら信じがたいことを言い出した。 「でも、驚いたよ。新藤って、てっきり国立狙いかと思ってたけど、柏木と同じ大学志望なんだな。新藤なら国立行けるだろうになんでだろうな」 ……はぁ？ 今、なんて言った？