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21.新たなはじまり 6
「ただいま~」
「おかえり」
修平の声が聞こえるキッチンからは今日もいい匂いがしていた。
今日はなんだろうと思って軽くクンクン匂いを嗅ぎながら靴を脱いでいると、後ろから「麻婆ナスだよ」と声がした。
まさかまた声にでていたのかと焦って振り返るとニヤリと笑った修平がそこにあった。
ま、またか……。
こんな風に心を読まれる日常も前とあまり変わってない。
「先に着替えてくる」
「もうすぐ出来るよ」
わかったと言って自分の部屋で部屋着に着替える。
一応、俺たちには個人の部屋がある。
俺ら的には同じでも良かったんだけど、なんせ親が契約した部屋だから表向きはルームシェアということになっているし、親たちは俺たちが恋人同士だとは思ってないのでこうしておくのが一番だろうと修平が言っていた。
でも、住んでみれば部屋割りなんていうのはさほど大きな問題ではなかった。
そんなのは寝るときにどちらかの部屋に行けばいいだけの話だから。
朝までかかる課題があるとか、テスト前の詰め込みが必要とか……主に俺の理由だけど、そういったことがなければどちらかの部屋で寝ていた。
最初は毎日一緒に寝るとかって妙に恥ずかしかったんだけど、慣れってのはすげーよ。いや、慣らされたのか。
そんなことを思いながら部屋着に着替えてリビング兼ダイニングに向かうと修平が麻婆ナスをテーブルに並べているところだった。
「すげーうまそー」
今日の晩飯は、炊きたてのご飯に麻婆ナスに中華サラダ、冷や奴とゴマ団子。
「このゴマ団子も手作り?」
「うん。そうだよ」
一緒に住んでみて改めて思ったことは、修平はやりくり上手だということだった。
ちなみに中華サラダに入っていたきゅうりはナスを買ったときにオマケしてもらったからタダなんだって。
修平曰わく八百屋の店番がおばさんのときに行くと良いらしい……。
この間は、トウモロコシおまけしてもらっていたし。
そういえば肉屋さんでコロッケ付けてもらっていた。
こいつ、すげーおまけしてもらいまくりじゃねぇかっ!
お……恐るべし、新藤修平。
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