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22.快活シンパシー 2
少し緊張する。ああいったチャラそうなやつって実は苦手なんだよな。
するとマスターに促されてそいつが振り返る。悔しくも背が高いだけでなく顔も整っていたそいつは、振り返ったと同時に人懐っこい笑顔を向けた。
「千秋くん。この子、昨日言ってた新人の佐々木くん。こちら教育係の柏木くんだよ」
うまくやってけるかな……。ぜってーこういうヤツは挨拶だって、ちぃーっすとかに決まってる。
そう思って構えていると、佐々木というヤツは腰をこれでもかってくらい曲げながらお辞儀した。
「今日からお世話になります! 佐々木 航 です」
どんだけ曲げるの腰!? 直角⁉︎ 直角か⁉︎
ちぃーっすではなくちゃんとした丁寧な挨拶をされたのが予想外で少し固まってしまったが、すぐに俺も挨拶を返した。
「か、柏木 千秋です。よろしく」
俺も可能な限り腰を曲げて挨拶するとマスターがにっこり笑って言う。
「千秋くんに何でも聞くといいよ」
「柏木さん。オレ、喫茶店のバイト初めてなんでいろいろ教えてください」
「えっ、あっ、はい! よ、よろしくです」
しっかりした態度の佐々木を見て、お手軽な俺の印象は最初のチャラそうなヤツからちゃんとしたヤツにすっかり変わっていた。
「さ、佐々木さんっていくつ? ……ですか?」
柏木さんなんて呼ばれたのが初めてだったから思わず俺もさん付けになる。そして思わず俺まで敬語だ。
「オレはハタチになったばっかの大学2年っす」
「大学2年のハタチ……ってことはタメじゃん!! 同い年だから敬語とかよそうぜ。むず痒いし」
大学生だとは知ってたけど、同い年だったとわかり少しだけホッとしたら気が抜けた。
しかし見た目に似合わず意外と真面目な佐々木は、
「いや、バイト歴が先輩なんでこのまま」とか言っていたけど、あまりに俺が嫌がるからマスターが間に入って敬語なしの方向で落ち着いた。
最初は遠慮がちだった佐々木だが次第に慣れていき、いつの間にか昔から友達だったかのように笑いあう俺らを、微笑ましい目で見ながらマスターが俺に伝票を手渡す。
「レジはここをこうして、最後にこのボタンを押せばお釣りが出るから」
「わかった。ありがとう」
その日は佐々木に一通りの流れを教えながら仕事に励んだ。
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