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26.湯けむりで目隠し 2
すると無愛想な東海林に航が近寄り、またいつものように腰を折れそうなくらい曲げて挨拶をはじめた。
「はじめまして。佐々木 航と言います。ジョージさんって言うからてっきり外国の方かと思っていました」
「はじめまして、東海林 蒼輔 です。ってか、ジョージ? なにそれ。話はだいたい新藤から聞いてるけど、同い年なんでしょ? なんで敬語?」
「初対面だから。そっちが良いならノー敬語にするけど」
「ま、どっちでもいいけど。さ、荷物積んだなら行くぞ!」
航たちが挨拶し合っている間に荷物を積み込んでトランクを閉めると、東海林が近づいて来た。
そして意味ありげにニヤリと笑う。そしてそれと同時に俺は眉間に皺を寄せる。
「久しぶりだな千秋」
「そうだな。東海道」
俺が東海林のことをわざと“東海道”と呼べば、東海林はフッと鼻で笑った。
「相変わらずだな。新藤、前乗るか?」
「……うん」
いつも思うが東海林はとっつきにくい。
切れ長の目はあのノンフレームの眼鏡の中からギロッと睨まれているようで少し怖いし、中身はあまり物事にこだわりがないタイプらしく何でもま、いっかで済ませるやつなんだけど、なんとなくいつも俺は嘲笑われているような気がしてならない。
すると、修平が助手席に乗り込もうとしているのを見て、航が後ろから俺の手を引っ張り内緒話をするように耳打ちした。
「なぁ、修平くんが助手席でいいのか? 俺が助手席行こうか?」
きっと航は気をつかってくれているんだろう。
「つか、初対面のお前が助手席ってどうよ」
「いやオレそういうの平気だし」
まぁ、そうだったな。……お前ならそうだな。
心配した俺がバカだった。
「でも大丈夫。つか、いつも東海林の車に乗せてもらうとき俺だけ後ろの席だし」
このパターンは今に始まったことじゃないことを航に告げると、なにやら想像したようで笑い出した。
「マジか! え、いつも一人? なんかウケる」
「うるせー」
そうしていると既に車に乗り込んでいた修平が窓を開けて俺たちに声をかけた。
「……置いていくよ」
「あ、まって」
急いで車に乗り込むと東海林は車を発進させる。
豪華旅館に泊まる旅の幕開けだ。
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