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26.湯けむりで目隠し 7
その東海林の馬鹿にしたような言い方がまたむかつく。
「なんだよ。お前はマシな感想が言えるって言うのか?」
「お湯って感じっつーのよりはな」
クスクス笑う東海林の横で、航も俺たちに温泉たまごを配りながら得意気な表情で感想を述べてみせた。
「もっとさー滑らかな舌触りとかあるだろー? 炭酸の風味が……とか」
「なんだよ炭酸って。つか、航は東海道派なのか!?」
「ジョージくんは物知りだからね。この温泉には炭酸が含まれてるって教えてくれた」
なんだよ。教えてもらったならお前だって炭酸に気付かなかったってことじゃん。
この裏切り者め!
すっかり航が東海林に手懐けられていてイラッとしたので航たちに背を向けると、修平までもがクスクスと笑っていた。
「なんだよ……修平までバカにしてるのか?」
「してないよ」
そう言いつつ、航から貰った温泉たまごを食べながらまた笑っている。
「修平までむかつく……」
俺も温泉たまごを食べようとすると修平がそっと俺を引き寄せて耳元で囁いた。
「僕はね、千秋の表情がころころ変わって可愛いなって思ってたんだよ」
思いがけない修平の甘い言葉に驚いて、思わず2人に聞かれてないかと振り返れば、航は少し離れたところにある観光マップをバックに東海林に写真を撮って貰っているようだった。
「大丈夫。わかってるから」
修平は俺が心配したこともわかっていたかのようににっこり笑う。
「僕らも写真撮る?」
「いい、頼むの面倒だし」
「そう? 記念になるのに」
「そうだけど、恥ずいし……」
「僕が撮ってあげようか?」
「えっ……そんなん、意味ないじゃん」
すると修平は目を細めて口角をきゅっとあげるとまた耳元で俺だけに聞こえる声で囁いてきた。
「今の顔すっごく可愛い。今すぐ抱きしめてキスしたい」
「お、おま……」
その声は耳からダイレクトに頭に響いて、同時に顔がカァーっと熱くなるのを感じる。
絶対に今、俺真っ赤だ。
すると修平はニヤリと笑って俺の持っていた飲みかけの温泉水を自分のと交換してしまった。
カップの中には修平のも、俺のと同じくらいの温泉水が残っていて。
「何? これ修平のじゃん」
そう俺が言うと修平はまた顔を近づけて小声で話す。
でも今度はちゃんと目を見つめられたまま、修平の目が細まった。
「今ここでキス出来ないから、コレで間接キスね」
そして言い終わると、最後に修平はこれでもかってくらいに甘い笑顔を向けた。
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