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26.湯けむりで目隠し 11
そして期待を膨らませながら俺たちは二の湯に向かった。
こっちはさっきとは打って変わって古代ローマ風の露天風呂だった。
先ほどと同じく開放感は抜群だけど、洋風ってだけで雰囲気が違って面白い。
「すげーさっきの純和風からの振り幅がやばい!」
俺と航がはしゃいでいると東海林も呆れた顔をしながら風呂に入って来た。
「さっきからうるせぇなぁ」
「なんだよ! 東海道! こんなでかい風呂見て感激しないなんて感性が乏しいやつだな」
「語彙力の乏しい奴に言われたくない」
「なんだとー!」
すると修平も湯船に浸かり俺の隣に座る。
「千秋は素直なだけだよ」
「新藤がそうやって甘やかしてるからどんどん馬鹿になってくんだ」
「俺は馬鹿じゃねぇ!」
そんな俺たちの掛け合いを他の宿泊客のおじさんたちに笑われたけど。
なんやかんやでローマ風の二の湯も堪能した。
そして三の湯は前の2つに比べたら小振りの露天風呂だったが、ここは四季折々が身近に楽しめるとあって、目の前に大きなもみじの木が目に入ってくる。そのもみじを見上げながら入ることができる岩風呂だ。
真っ赤に色づいたもみじを見ながら入浴って風情があっていい。
すると修平が紅葉を眺めながら、
「ここは春になったらしだれ桜が満開になるらしいよ」と言った。
修平はさっき仲居さんから教えてもらったらしい。
すると「俺も聞いた」と航と東海林までもが頷いていた。
え? なんでみんな仲居さんから聞いてんだよ。……俺は誰からも聞いてないんだけど。
でも、それを理解するとまた頭の中で怒りがふつふつと沸き上がってくる。
こいつらばっかりモテてやっぱりムカつく!!
そう思ってちょっと膨れながら少し離れたところに移動すると、修平が近寄ってきて顔を覗き込んで笑った。
「いじけてるの?」
「いじけてない」
そして耳元で俺だけに聞こえる声でそっと囁いた。
「僕だけにモテるだけじゃ不満?」
なんかそんなこと言われると恥ずかしくてしょうがないので、俺はそのまま鼻の下くらいまで温泉に浸かる。
するとクスクスと笑った修平はお湯の中でそっと俺の手を握ってきた。
「お、おい……」
「大丈夫。見えないから」
「でも……」
「僕にとっては千秋だけが特別」
修平は笑いながらお湯の中で握る手の力を強めた。
顔が赤くなっても温泉のせいにできるからいいけど、目の前には航や東海林もいるのに。
でも修平と手を繋いでいると、やっぱり特別って感じがして心までほっこりした気がした。
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