3 / 28

第3話 もう一つの終わり

ホント、何これ?今朝に限っていろいろ起こる。 僕何か悪いことしたっけ? 神様の意地悪なわけ? そんなことを考えていた。 相良が部屋を出て10分後、また玄関のチャイムが鳴った。 玄関の覗き窓から見る。 さっきの男が立っている。 「何?何か忘れ物?」 そう言いながらドアを開ける。 「いえ・・・。浩二、上の部屋に住んでませんでした・・・」 「はあ??」 「もう違う人が住んでて・・・・俺・・・」 そう言いながら、目の前の男が泣き出す。 「ちょ!ちょっと!!ここで泣かないで!」 その時エレベーターホールからお隣さんが帰ってくる姿が見えた。 「もう!中に入って!!」 玄関で大の男が泣いている。 もう乗り掛かった船だった。 「相良さん!とりあえずそこ座ったら?  コーヒーでも入れるから!」 「はい・・・すみません・・・」 この男は今日何回僕に謝る気なのだろう。 もういい加減、謝られるのにも飽きてきた。 「はいこれ、インスタントだけど、コーヒー!」 マグカップを差し出す。 やっと涙が止まったのか目をゴシゴシと擦っている。 「そこのティッシュ使ったら?」 それを聞いて、一通り鼻水と涙を拭いたようだ。 「もう、何があったか聞いたげるよ。そんなに愛してたの?その男の事!」 「はい・・・実は指輪買ってきてたんです。帰国したら渡そうと思って、アメリカで買ってきたのに・・・」 また涙ぐんでいる。 「そんなにいい男だったの?」 「はい。すごく好きでした・・・」 「でも新しい男ができてたんなら、もう諦めなって!運命の男じゃなかったんでしょ!もし本当に縁があればまた会うよ」 「・・・・・・・」 「はあ、僕もこんな人の事聞いてる気分じゃないのに・・・」 「・・・・すみません・・・」 「でも、指輪なんてポケットに入ってなかったけど??昨日渡したの?」 「・・・・え?俺・・・渡そうとしたけど、断られて・・・ええ!!!!?持ってない!!!!なんで???あれ?マジで!?どこにやったんだろう!?」 そう言いながら慌てだした。 「俺、本当に持ってませんでした?」 「僕がポケットを探った時にはお財布しかなかったけど?」 「はあ・・・・。きっとどこかで無くしたんですかね・・・あれ、高かったんだけどな・・・」 「昨日行ったっていうゲイバーは?行きつけだったんなら、場所わかるんでしょ?」 「はあ・・・・後で電話してみます・・・でも、もし忘れたんだとしたら、もうないですよね・・・」 「ちなみにどこの指輪だったの?」 「ティファニーです・・・」 「え・・・ティファニーなんだ・・・・」 まさかここでまたティファニーの指輪の話を聞くとは思わなかった。 今朝方あの”よし君”から別れのプレゼントとして貰ったモノもティファニーだ。世の中にはティファニーしか指輪は売ってないの!?なんだか、イラついた。 「で、今日は仕事じゃなかったの?  金曜だけど・・・」 「あ、はい。帰国してすぐなので来週月曜から仕事なんで・・・」 「ふ〜ん。いいところに勤めてるみたいだし、まあまた指輪買えば?」 少し意地悪を言ってやった。 「えっと・・・名前・・・」 「和樹!」 「和樹さんは・・・・ゲイですか?」 「え?このタイミングで聞く?何?だとしたら何なの?」 「いや・・さっきから、俺、よく考えたら男の恋人ってこと言ってるのに全然驚かないから・・・」 「そうだよ!僕は生粋のゲイ!だから驚かないし、ゲイの失恋話ってみっともないから、もううじうじするのやめてくれない!?」 こっちも本当は感傷に浸りたいのに、勘弁してほしい。 「そうですよね・・・本当。すみません・・・」 「あーーーもうだからいいって!!」 「あの・・こんなに迷惑かけちゃったんで、  改めて今度お礼したいんですが・・・」 「いいよ!別に。気まぐれで助けただけだし!」 「でも・・・」 「もういいから!!!」 「・・・・・・」 また沈黙が流れる。 「とりあえず、それ飲んだら、帰って。  僕今から寝るし!」 「え?もう寝るんですか?」 「いいでしょ!!今日朝帰りしてるでしょ?僕!!」 「あ・・・そうでした・・・すみません」 「はあ・・・もう・・・」 何度言っても口癖のように謝る男だ。 「とりあえず、それ飲んだら帰ってよね」 そう言うと、少し悲しそうな顔で僕を見た。 「そろそろ、帰ります。本当に、ご迷惑をおかけしました・・・。すみませんでした・・・」 そう言って玄関から出て行った。 まだ時間は17時半だった。 確かに寝るには早すぎる。 でも、もう今日は何もしたくない気分だった。 服を全部脱いで、シャワーも浴びずにそのまま寝た。

ともだちにシェアしよう!