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第4話 一週間後
一週間後。
今日はメイクの学校の卒業式だった。適当に式に出て、適当に帰ってきた。
就職が決まってないのは、自分くらいだったから先生にも心配されたが、なぜだか焦って仕事を決める気にもなれなかった。幸い貯金もまあまあ有る。
男娼していた時のお金だ。
そして義姉のあやが、知り合いのフォトスタジオでメイクアシスタントのアルバイトを募集していると教えてくれた。
その面接も昨日行った。
だからとりあえずのアルバイトはできそうだ。
まあ、どうにかなるかな・・・などと考えながら、
そのままどこにも寄らず帰ってきた。
あやからメールが入ってきた。
”和樹、今日卒業式だったよね?卒業おめでとう!明後日、秀一帰ってくるから一緒に鍋でもしよう。和樹の卒業祝いも秀一が渡したいって言ってたから、絶対来てよね!時間は夕方適当にきてくれたらいいし。必ず来てよ!もう材料買ったからね!あ、バイトの面接行ったんだね。聞いたよー”
話が早い・・・もうバイトの面接行ったことまで知っている。義姉には逆らえないな・・・と思いながら、わかったと返事をした。
夜8時頃にインターホンが鳴った。
こんな時間に訪問者なんてありえない。
きっと間違いだろうと思って居留守を使った。
しばらくして、また鳴る。
面倒だったが、覗き穴から覗いてみた。
赤いバラを抱えて誰かが立っている。
近すぎて誰かまでは見えない。
チェーンをしたまま少しドアを開けた。
「和樹さん!これ・・・」
そう言って立っていたのはこの前のあの男だった。
「はい?なんで?」
「この前のお礼です。バラは嫌いですか?」
この前とは打って変わってビシッとスーツを着てバラの花束を持って立っている。見ているこっちが恥ずかしくなるくらいだ。
「あの、開けてもらえませんか・・・?」
「え?入りたいの?」
思わずこの前の調子のまま冷たく言ってしまった。
「はい。今日はお礼なので、こっちも持ってきました」
そう言って、紙袋を持ち上げてみせる。
その時、また隣の住人が玄関のドアを開けた。
「はあ・・・わかったよ。ちょっと待って」
仕方なしにドアを開けた。
「入って・・」
「ありがとうございます。和樹さん!」
そう言って今回は自ら部屋に入っていった。
「あれ?今日はなんだか雰囲気違いますね」
さっきまで着ていたスーツが部屋に吊るしてあるのを見て相良がそう言った。
「何だか髪型も今日は違いますし・・・」
そう言いながら、自分の上着も脱いでいる。
「今日卒業式だったから」
「え?卒業式・・?和樹さんっておいくつですか?」
「二十歳だけど?」
「マジっすか!そんなに若かったんですね・・・。
若いとは思ってたけど、そこまで若いとは・・・
本当俺、情けないとこ見せてたんですね・・・・
はあ・・・」
「相良さんは何歳なの?」
「名前覚えてくれてる・・・俺は、28歳です」
「え???そんなにいってるんだ・・・」
「はい・・・ほんと情けない・・・」
「まあいいや。で、さっきの紙袋は何が入ってるの?」
「あ!その前に、これ!こっちがこの前のお礼です。赤いバラが似合いそうだったから・・・嫌いじゃなければいいのですけど・・・」
目の前に真っ赤なバラの花束を差し出してきた。実際、和樹は赤いバラが好きだった。情熱的でいい匂いがする。
「あ・・ありがと・・。バラは好き」
「ハァ〜よかった〜。これで気持ち悪いとか言われたらどうしようかと思いました・・」
そう言いながら頭を掻いている。
「あのさー、もうその敬語やめない?僕よりだいぶ年上だってわかったし、別にもういいよ」
「じゃあ、俺のことも相良さんじゃなくって啓司って呼んでください。そっちの方が俺も呼ばれ慣れてるんで・・」
「わかった。啓司!」
ははははと啓司が笑った。
「そして、こっちの紙袋は、お酒です。あ!!二十歳ってお酒飲めますよね??」
一人で慌てている。その姿が可笑しくって思わず笑ってしまった。
「ふふふ。飲めるよ。お酒」
「やっと笑ってくれた・・・」
そう啓司が言って紙袋から高級ワインを取り出した。
「今日卒業式だったんなら、ちょうど良かったです。祝杯しましょう」
「啓司、敬語やめてって」
「あ、はい・・・じゃなかった」
「もう怒ってないからリラックスして。変な出会いだったけど、まあこれも何かの縁でしょ!」
「そうですね・・・。そう言ってくれて良かった」
ワイングラスを出す。和樹の部屋は一人暮らしのワンルームの癖に、こういうグラスだけはある。
「これでいい?グラス」
「すごいですね。学生なのにワイングラスあるなんて・・・」
「ははは。よく言われる。僕ワイン好きだから」
「それはよかった。じゃあ俺が開けますね。オープナーもあったりします?」
「あるよ」
「実はオープナーも持ってきてるんですけどね・・・いらなかったですね」
「じゃあそれで開けて。その間に僕このバラを花瓶に生けるから」
「了解!」
そう言って器用にワインを開けている。
あんな知り合い方をしたのに家に上げてしまってる自分に内心驚きつつ、まあ面白いかも・・・?と思ったりしていた。
バラの花をベッドのサイドボードに飾る。
「よかった。綺麗。和樹に似合ってる」
ふと啓司がそう言って笑いかけた。
「じゃあ、乾杯しよう。和樹の卒業と俺の卒業に!」
「ん?卒業・・・?」
そう言っている間に乾杯をしてきたのでそのままつられてグラスを合わせた。一口飲んでみる。とても美味しい。
「これ、高かったんじゃない?すごく美味しい」
「よかった。口に合いましたか」
「さっき俺の卒業って・・・?」
「ああ、あの後浩二にメール送ったら、もうメールも届かなくなってて。俺完全に振られたんだなってさすがに理解して・・・結局指輪も見つからなかったし。まあ、もうこれは縁がなかったんだなって思うことにしました!!」
「一週間でけりつけてきたって感じ?」
「はい!!俺、うじうじしてる自分が一番嫌いだから。あの時助けてくれた和樹には報告しないとなって、気になってたから・・・」
「そうなんだ・・・。すごいねー。切り替えられるの尊敬する・・・」
「え?俺より和樹の方が何だか凄そうだけど・・・。落ち着いてるし、肝が据わってるっていうか・・・」
「ハハハハ!何それ!そんな風に見えてたの?」
「見えてた・・・まさか二十歳だと思わなかったし・・・」
「じゃあ、今日からは新しい啓司ってわけね」
「そう!だから乾杯!!!」
そう言って一気にグラスに入ったワインを飲み干した。その後3時間ほど啓司は自分のことを話した。
大学を卒業して、一年バックパッカーで世界を放浪したこと。今の会社にはその時の経験をかってもらって就職したこと。ゲイなのは会社では内緒にしていること。今は一旦実家に帰っていること。海外勤務希望を出していること。
そのため海外出張が多いこと。
なかなか話していたら楽しい男みたいで興味がわいた。この前は犬にしか見えなかった啓司だったが、今日はスーツを着ているからか仕事帰りだからか、よく見ればかっこいい。お酒が回ってきているのか、だんだんいい男のように思えてきていた。いくら大きなワンルームといえども一人暮らしの部屋に男二人は狭い。啓司も酒が回ってきたのか、少しコクリとしだした。
「啓司ぃ。今日泊まってくの?もうすぐ終電の時間だよー。どうするの??」
「ん?もうそんな時間?帰るのめんどくさいなぁ・・」
「じゃあ泊ってく?僕のベッド狭いけどー」
思わずそう口から出ていた。
「いいのか?和樹。俺床でいいから。もう眠い・・・」
そう言いながら床にゴロンとなった。
「ちょちょっと!服脱いで、スーツ皺になっちゃうよ!」
そう言って肩を揺らす。んーーーと言いながら服を脱ぎだした。下着姿になる。体のサイズが全然違うから合う服がない。和樹は自分が持ってる一番大きなサイズのTシャツを渡して、それを着せた。啓司はそのまま床に寝転んでいる。
「啓司!そこでその格好で寝たら風邪ひくよ!寝るならこっちのベッドかこのラグの上で!」
「んー俺はラグの上でいい。ベッドだと和樹が狭くて寝れないだろ?」
そう言ってもぞもぞとラグの上に寝転がった。和樹はその寝転んでる啓司にふかふかの羽毛布団の方をかけて、自分はベッドで毛布で寝た。暖房をつけてあるから多分、これで寒くないはず・・・。
そんなことを考えながら二人ともその日は爆睡した。
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