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第12話 写真

あの撮影の3日後、和樹の勤めるスタジオにエイジが顔を出した。あの時に撮影した写真の綺麗に撮れているものを30枚程度、データにして持ってきてくれたのだ。家に帰ってそのファイルをパソコンで見てみる。 僕ってこんな顔してるの? 最初の感想はそれだった。 30枚の写真はあのホテルでのものだった。際どいものもあるが、総じて全て綺麗に撮ってくれている。このモデルをして良かったと思うものばかりだった。少なくとも歳を取っても自分の若い綺麗な頃を形に残せる。和樹は満足していた。 5月頭 啓司から連絡があった。 今からお土産を持っていくと。 啓司は10日ほど前に出張から帰ってきていたが、なかなか忙しかったのか会えずにいた。ちょうどゴールデンウィークに入って休みが取れたようだった。 いつもの調子で啓司がやってきた。片手には何か食べ物を持ってくる。いつも手ぶらで来てくれと言ってもなかなかそうしてくれない。この日も生ハム持参だ。 そして、お土産はワインとキモノガウンというのだろうか。シルクで出来た羽織りものだった。 「これ、高かったんじゃない?シルク?」 そう聞いてみた。 「うん。ちょっとしたけど、どうしてもこれを着てる和樹が思い浮かんで、奮発した」 そう言ってくっついてくる。 「啓司、そんなに僕にお金かけないでよ。僕何も返せない・・・」 そう言っても啓司はふふふと笑ってまた一樹を抱きしめた。 啓司が和樹の部屋に来たときは、毎回泊まって帰る。それは啓司がそうしたいというからだが、和樹も断るつもりもない。毎回同じベッドで啓司が和樹を抱きしめて眠りに落ちていた。 この朝は珍しく和樹より啓司の方が早く目が覚めた。シャワーを借りる。 その間に和樹も目が覚めたようだ。パソコンで何か作業していたようだったが、そのまま入れ替わりでシャワーを浴びに行った。啓司はヤカンを火にかけ、お湯を沸かしてコーヒーの準備をした。コーヒーができて、マグを二つテーブルに置く。 その時に、和樹のPCにメールが届いたようだった。 画面が光る。 目の端にその画面が映る。 啓司は固まった。 PCのスクリーンに映っているのは裸の和樹がベッドに寝ている艶かしい写真だった。 「啓司、コーヒー淹れてくれたんだ。ありがと・・・」 そう言いながら頭を拭きつつ啓司の横に和樹が座った。 「和樹・・・・この写真・・・」 「うん。これこの前モデル頼まれて、撮ってもらった。きれ・い・」 まで言いかけた時に、啓司が遮るように言った。 「和樹!これ二人っきりで撮ったの?カメラマン男!?」 そう大きな声で言うものだから、和樹はびっくりしてしまった。 「え・・・そうだけど・・・」 「・・・・・・俺帰る」 そう言ったかと思ったら、すぐに服を着出して、そのまま出て行ってしまった。 和樹は呆然としていた。 なんだか啓司は怒っているふうに見えた・・・。 まだ啓司が飲んでいたコーヒーからは湯気が立っていた。 一方啓司は居た堪れない怒りに支配されていた。 なんで?!あんな写真、どうみてもセックスした後みたいに見えるし! 俺と一緒に寝てて、他に好きなやつがいるってこと? 気に入られていると思ってたけど、違うわけ? 俺だってあんな和樹の顔見たことないのに!なんで? 男のカメラマンと二人きりでって、真っ裸の写真だったじゃないか! ひとしきり怒った後、気がついた。これは嫉妬という名の怒りだと。そして、こんなにムカつくくらい和樹のことが好きになっていたのだと。まだ告白もしていない。なら俺がこうやって怒るのも筋が違う気もする。でも今は和樹に会いたい気持ちよりも、自分の気持ちの中がグチャグチャに掻き乱されていることの方がどうしようも無いと思った。和樹の家を飛び出してきたはいいが、この思いをどうした良いのかもうわからなくなっていた。

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